開かれた扉 南北新時代(5)

世界最強のソフトウェア国に
ゼロサムゲームからウィンウィンゲームに


 南北共同宣言第4項は、一方が得をすると、もう一方が損をするというゼロサムゲームが、もはや終わり、南北双方が互いに得をする時代へ突入することを告げた。

南経済の体質改善

 97年に南朝鮮は、深刻な経済危機に見舞われた。外貨不足のために、モラトリアム(債権不履行)状態に陥ったのだ。

 その理由は、直接的には金泳三政権の経済政策の失敗、市場開放による外国製品の輸入超過、外国資本の引き上げなどだが、本質的には南朝鮮の国際競争力の低下にあったと言える。

 原材料を輸入し、安い労働力で加工・輸出するという労働集約型産業が、人件費の高騰と中国や東南アジア諸国の進出によって、価格面での競争力を失ったのだ。

 かといって、ハイテクを駆使して付加価値の高い製品を作り出す力は、いまの南朝鮮にはない。技術革命が非常に発展した現代社会で付加価値の高い製品を作るためには、莫大な投資が必要だし、日本にその技術の供与を求めても、ブーメラン現象を恐れる日本は、おいそれと技術を供与しようとしなかった。

 これを打開する道は、南朝鮮の経済体質を、労働集約型から付加価値型へと変えることで、その答えが南北共同宣言に盛り込まれている。

北の基礎科学応用

 現在、南の企業がもっとも注目しているのが、北のソフトウェア開発技術である。なかでも音声認識、指紋認識システムは、世界的水準だと評価されているし、ほかにも人工知能認識、各種制御分野、医療情報システムも注目を集めている。

 金大中大統領に同行した南朝鮮のメンバーは、平壌の朝鮮コンピュータセンターで、実際に朝鮮語音声入力システムのデモンストレーションを見て、感嘆の声を挙げた。女性が話す言葉を、コンピュータがすらすらと文字に変換していたのだ。この音声入力システムは、米日でも開発が進められているが、実用化にはいま一歩といった水準だし、朝鮮語の入力システムで製品化されたものはない。

 だから「南の技術および資本と北の安い高級人力が合わされば、わが民族が世界最高のソフトウェア強者として浮上することができると期待されている」(ハンギョレ6月16日付)のだ。

 ソフトウェアと並んで注目されているのが、北が所持している基礎科学分野の蓄積だ。

 北は、98年8月に3段ロケットの人工衛星を発射して世界中を驚かせたが、人工衛星を自前の技術で打ち上げられる国は、朝鮮を含めて9ヵ国しかない。しかも3段ロケットの打ち上げには、非常に高度な技術が必要とされている。ちなみに日本のロケットは2段で、ここ数回、連続して打ち上げに失敗している。

 通信分野や気象観測など、人工衛星の需要は高まる一方で、この分野で南北が協力すれば、商業衛星の打ち上げでも大きな利益が上げられるだろう。

南北縦断鉄道の連結

 地理的にも朝鮮半島はたいへん有利な位置にある。すぐ隣に日本という成熟した市場と、中国という巨大な市場がある。加えてシベリアの膨大な天然資源にも手が届く。朝鮮半島を縦断する鉄道を敷けば、そのまま北京、ウランバートル(モンゴルの首都)、モスクワ、ベルリン、パリへ直行することができるのだ。

 金日成主席は94年6月30日、ベルギー労働党中央委員長との談話で「例えば、新義州と開城間に鉄道をもう1本敷いて複線にし、南朝鮮に入る中国商品を運ぶだけでも、そこから1年で4億ドル以上の金をもうけることができます」と述べている。

 これについては南の方でも同じような認識を持っている。三星経済研究所の試算では、朝鮮半島を縦断する2005年までにヨーロッパを目的とした物流量は、年間6万〜13万コンテナに達する。南北縦断鉄道が、日本と海中トンネルで繋がれば、物流量はさらに飛躍的に伸びるだろう。

 もともと朝鮮半島には、東と西に南北縦断鉄道があった。新義州とソウルを結ぶ京義線(西)と元山とソウルを結ぶ京元線で、京義線は北側8キロメートルと南側12キロメートルの計20キロメートルを、京元線は北側14.8キロメートルと南側16.2キロメートルの計311キロメートルをそれぞれレールを敷くだけで連結することができる。

 とくに京義線は、断絶される以前、複線だったので、鉄道の高速化は別として稼動そのものは困難ではないと思われる。

 88年から始まった南北交易は、昨年3億2344万ドルを記録した。しかし、このほとんどが賃加工によるもので、賃加工の増大は、必然的に南朝鮮経済の空洞化を招き、それは経済の不均衡をもたらす。

 したがって、本当の意味で南北が勝者になるには、賃加工ではなく、双方が同等の立場で協力しあうことではないだろうか。
(おわり、元英哲記者)

TOP記事

 

会談の関連記事