米国の経済制裁緩和
動く情勢、在日社会との関係性の整理必要
今回緩和されたのもには金融サービスも含まれる
(シティバンクの東京・大手町支店)
在日同胞も対象だった? 金融など規制、ミッキーマウスも 米国政府は6月19日、50年にわたり取り続けて来た朝鮮に対する経済制裁を一部緩和。一般消費財の貿易や民間航空機、船舶の乗り入れが可能になった。一連の朝米協議で合意されていたもので、信頼醸成の一歩と言える。ところで米国の経済制裁だが、実は在日同胞の生活の中にも、ときおり顔を出すことがあった。同胞にとっての「生活と情勢」の一断面を見る。 「米系の銀行に口座開設に行ったら、朝鮮籍は本国の制裁に引っかかるからダメだと言うんです。忙しい中、サービスの説明などを長々と聞かされた後だったので、うんざりしましたね。結局、担当者が『南ということにしてもらえれば…』というので、適当に任せてしまいました」 この銀行は、米国に本社を置くシティバンク。 今回の制裁緩和では、金融サービスも解禁になったが、同行の対応はどうなるのだろうか。問い合わせたところ、「当行では本社の指示により、98年6月以降、本国の経済制裁を理由に、国籍によって口座開設を断ることはありません」と意外な返事だった。 98年6月と言えば、Kさんの話より前だ。Kさんに再確認すると、「口座開設日は12月25日になっており、間違いありません。目の前で職員が端末を操作し、国籍をノースからサウスに直したのを、はっきり覚えている」と言う。 Kさんの話にあいまいな点はないが、シティバンク側は「有り得ない」「記憶違い」の一点張り。現場でなんらかの混乱があったはずなのだが、いきさつはつかみ切れなかった。 この時は、同胞からの断固とした抗議に対しアメックス側が謝罪、契約を回復して落着したのだが、ここでも釈然としないものが残った。 アメックスの謝罪は、経済制裁を省令として発していた米国財務省・海外資産管理室(OFAC)の見解を根拠にしている。 同社は問題の発端となったカード解約の理由として、会員自らが「北朝鮮国籍」を主張したため米国の法令を順守した、と主張していた。それが抗議を受けて、制裁は在日朝鮮人にも適用されるのかをOFACに改めてただしたところ、「在日朝鮮人の朝鮮籍は北朝鮮国籍ではない」、よって「在日朝鮮人には適用されない」との回答が寄せられたという。 しかし、当事者である同胞は、自分は朝鮮民主主義人民共和国国籍であるとの主張を曲げてはいない。在日同胞の国籍に、第三者が一方的に解釈を加えたような結果に、関係者らは「問題がすり替えられた」との感想を漏らしている。 米国のザ・ウォルト・ディズニー・カンパニー傘下の企業が運営するホームページからは、個人的に楽しむ目的に限り、画像などのファイルをダウンロードできる。ただし、そのための取り決めを記した「使用条件」には、次のような内容が含まれている。 「このサイトのソフトは北朝鮮その他米国が禁輸国としている国にダウンロードされたり、輸出されたり、再輸出されてはならない」「ダウンロード又は利用した場合、これらの国にいないこと、その支配下にないこと、その国民、在住者ではないことを表明し、保証することになる」 在住いかんなどは別として、「支配下にないこと」とはどういう状態を指すのだろう。ミッキーマウスの画像をダウンロードするにも、法令上はこんな問題があったとは、いささかギョッとしてしまう。 もちろん、制裁緩和でミッキーのやりとりも自由になったはずだ。しかし、ディズニーサイトの「使用条件」から、「北朝鮮」は削除されていない。日本の子会社は「本社の指示待ち」と言うが、米国本社に当たってもなしのつぶてだ。 ◇ ◇ これら米国企業の「規則」は、「法令に抵触すまい」との姿勢から生まれたものに過ぎず、在日朝鮮人という対象はイメージに入っていないはずだ。だから情勢が動いても、こちらの主張や説明がなければ適切な対応は望めない。 朝鮮半島を巡って、様々な動きが増している今、在日同胞は祖国や国際社会との関わりを、改めて整理し、自覚しておかねばならないようだ。 (金賢記者)
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