ユニークな遠足、ウリハッキョの取り組み/新潟初中の田植え
秋には稲刈りを準備
朝鮮に贈る米、自分の手で
最近、ユニークな遠足や課外授業を取り入れている朝鮮学校が増えている。例えば、西大阪初級学校ではイルカ体験、黒部立山アルペンルート登山、帆船体験などのほか、教科書の内容に沿った形で年6回の課外授業を行っている。東北朝鮮初中高級学校では化石発掘体験、西東京朝鮮第1初中級学校では、在日の歴史をきちんと知るための、1世同胞との交流会を開いている。新潟朝鮮初中級学校もその1つ。先月13日に行われた遠足は田植え。初めての体験にとまどいながらも、生徒たちは一生懸命取り組んでいた。
(李明花記者)
日朝交流に関心持つ契機に/協力者の川村さん いろんな角度から祖国を考えてみたい 生徒の心にも「苗」を植え付ける 今回協力してくれたのは、新潟NGO朝鮮民主主義人民共和国子ども支援連絡会(注)事務局長を努める川村邦彦さん(64)。川村さんらはこれまで、度重なる自然災害で食料不足に陥った朝鮮の人々に支援米を贈る活動を続けてきた。 今回、新潟朝鮮初中級学校の生徒たちが田植えをした場所も、支援連絡会メンバーの1人で農業を営む、太田真輔さん(41)の水田(見附市今町)。 同校の教員らは、川村さんらの支援に対する感謝の気持ちを込めて田植えを行うことを考えた。その体験を通して生徒たちが民族や祖国を大切に思う心を育めるようにと、今回の遠足を企画した。 川村さんは、今まで何度か招待を受けて朝鮮学校を訪れたことはあるが、正式な交流は初めて、とのこと。今回の試みについて「大変いいことだ。子供たちが自分の国のことや、日朝交流に関心を持つきっかけになれば。実際の体験は体に染み付いて忘れられないもの。そのなかでいろんなことを感じ、学び取ってほしい」と語っていた。
「田植えなんて…」と浮かない顔をしていた生徒たち。恐る恐る水の中に足を踏み入れる。「キャー、冷たい」「気持ち悪い」「どろどろして転びそう」と歓声や奇声を上げながらの田植え。さすがに中学生は作業が早く、受け持った区域の田植えを素早く済ませ、まだ手のついていない場所へと移動する。そのなかで悪戦苦闘していたのが新入生の文基永くん(初1)だ。「手がどろどろになっちゃったよ」と田んぼのまん中で動かない。困り果てた表情に周囲からは思わず笑い声がもれた。 作業が一段落し、泥だらけの足を水路で洗う生徒たちに感想を聞いた。 「農家の人たちがこんなに大変な思いをしてお米を作っていたのかと知って驚いた」(安純和さん、小6)、「足もどろどろになるし、最初はすごくいやだったけれど、やってみるととても楽しかった。祖国に贈ると聞いて一生懸命植えました」(李美沙さん、小6)などと語るその目は、田植え前とは打って変わって生き生きとしている。 最初はあまり乗り気ではなかったという白美和さん(中3)は、「やればやるほど楽しくなった。今回の経験を活かしてもっと違う角度から祖国について考えていきたい」と、祖国についての考えが深まったという。実際に身をもって体験するという経験は、生徒たちの心にも1つの苗を植え付けたようだ。 同校の金炳燦先生(30)は、「できれば田植えだけで終わるのではなく、育った稲を収穫するという一貫した作業を通じて、子供たちに祖国に米を贈るということを実感させたい。これから秋に向けてその準備もしていく予定です」と語っていた。 「田植え遠足」を通してちょっぴり成長した生徒たち。幼い苗が黄金色にそよぐ稲穂に育つ頃には、またどんな表情をみせてくれるのだろうか。 田植えに挑戦 3〜4束を1センチの深さに、粘りつく土、失うバランス 生徒たちと一緒に田植えにチャレンジした。 まず苗代(なわしろ)にまいた種もみから芽が出て、10センチほど育った苗をひとつかみほどむしり取り、入水。水面に目を凝らすと、水の底の土が碁盤の目のように少しだけ盛り上がっているのが見える。苗を植える時の目印らしい。昔から整然と苗がそよぐ田んぼを見るたびに「どうしてあんなに真っ直ぐ植えられるのだろうか」と不思議に思っていたのだが、そうか、こういうわけだったのかと1人で納得してしまった。 水底は「ぬるっ」とした粘土の感触。ねばりつくような土に足の自由が利かない。片一方の足を力を込めて抜くと、その反動でやじろべえのようにぐらぐらと上体が不安定になる。これは想像以上に大変だと気合いを入れ直した。 転んだら一巻の終わりと、必死にバランスを取りながら腰をかがめ、碁盤の目に沿って苗を植える。左手に握った苗の中から3〜4束をむしり、その根の部分を右手の指先でしっかり持つ。土の中1センチの深さに植え付けると聞いて、「倒れないかな」と心配になったが、実際にやってみると案外しっかりと植わった。こんな風にしながら苗を15センチほどの間隔で植えていく。一心不乱に苗を植えていくうちに、最初は気持ち悪くて仕方がなかった土の感触が、実はほんのり温かいことに気づいた。「これが大地のぬくもりか」としばし感慨にふける。ふとわれに返ると、目の前にはまっさらな田んぼがまだまだ果てしなく広がっていた。 今回植えた苗は、5月14日に種もみをし、28日が経過したもの。田植え後、様々な手間をかけながら9月中旬には稲刈りができるという(なお、稲刈時期は地域によって異なる)。 【注】 新潟NGO朝鮮民主主義人民共和国子ども支援連絡会 自然災害の影響で食糧不足に陥った朝鮮の子どもたちを支援しようと、97年に組織された。休耕田を利用した救援米作りを地元農家に呼びかけるなど、様々な活動をしながら支援物資とともに朝鮮を訪問もしている。これまでの支援物資の総計は、穀物類が535トン、肥料が192トンになる。問い合わせは〒951―8114新潟市営所通り2―709―2 日本基督教団新潟教会内同連絡会事務局(TEL 025・222・3420)まで。 |