ソクタム―ことわざ辞典

小さい唐辛子がもっと辛い


 体の小さい人が大きい人よりもある種の力を発揮することなどをたとえたことわざに、「小さい唐辛子がもっと辛い」がある。

 昔、ある王が民情視察のため、各地を歩きまわっていたときの話である。

 王が、ちょうど南山のふもとに到着したとき、もう真夜中であった。

 にもかかわらず、1軒のあばら家から読書をする声が聞こえてきた。不思議に思った王は、家に近づき静かに戸を開いて内に入った。

 「いや別に用はないが、たまたま、この辺を通ったところ、読書の声が聞こえたので立ち寄ってみただけのことだ。いま読んでいたのは、何の書か」

 急な訪問に驚いた家の主人は、「易経です」と答えた。

 「なるほど」と王はうなずきながら、「易経」についていろいろと質問をした。

 ところが、その応答は実に水の流れるごとくなめらかで、学識は豊かなものであった。
 主人は52歳、毎回科挙に応試しているが、いつも失敗し、生活もよほど困窮している様子であった。

 「あなたのような学識豊かな人が、科挙に失敗するとは、実に不思議なことだ。試験官の間に不正でもあったのか」

 「いや私が貧しいがためです」

 「今度、臨時の試験に応試すれば必ず合格するだろう」と、王は主人を励まし、その家を 
去った。王宮に帰ると、王は、2斗の米と2斤の肉などをかの老儒に送るよう召使に命じ
た。

 それから数日後、王の命によって、臨時の科挙試験が行われる旨が発表され、多くの受験生がそれに応じて集まってきた。ところが、試験合格者と接見した王は驚いた。かの老儒の代わりに一少年の姿があったからだ。

 「この答案は、汝のものか」すると少年は、「いいえ、私の老師が作られたものです」と素直に答えた。

 さらに王が、「汝の老師は今回の試験に応じなかったのか」と聞くと少年は、「老師は、王が送って下さったご馳走を飽食し、ついに病気になって立つことができなくなりました。それで、私が老師の草稿を勉強し、こころみに受験してみたのです」と答えた。

 王は、少年の率直な答えを聞き、しばらくあぜんとして言葉もなかった、という。 

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