私はコリアン?横浜の取り組み

手弁当のオリニ会


 朝鮮学校以外にも、在日朝鮮人児童が日本の学校で学んでいる現実がある。しかし、日本学校に在籍する同胞児童のアイデンティティー教育に関して、日本政府の積極的な施策は何もない。そのことから、彼らが自分の民族の文化に触れる機会づくりは、現場の教員や同胞、自治体まかせだ。横浜で動き出した数々の取り組みを、4回にわたりレポートする。(張慧純記者)

限られるチャンス/沈黙する保護者、通名8割の現実

民族に触れる場

 「迷っているのかなぁ」。横浜市立潮田小学校でツルミオリニ会が開かれる土曜日の午後。会を運営する山本すみ子さん(61、潮田小学校元教員)は、開始時間が過ぎても
子供たちがなかなか現れないため、心配な様子だった。

 10分ほどたつと、運動場から子供の声が聞こえた。窓を開け、満面の笑顔で手を振る。「おーい、こっちだよ」。子供たちは山本さんのいる調理室に向かって一目散に階段を駆け上がってきた。

 ツルミオリニ会は、在日朝鮮人の子供たちに自分の国の言葉や文化に触れる機会を、との思いから、鶴見区の教師と保護者が中心となって昨年の春に立ち上げた。

 会の活動は、かるたを使った朝鮮語の勉強やコリア庭園への遠足など様々だ。子供たちの人気で決めたりもする。1番人気は朝鮮料理で、年度末の最終授業はみんなでオイ(きゅうり)キムチと朝鮮のりを作った。

 調理が終わると試食会。たわいない話をする中で、ある女の子が「おばあちゃんは時々朝鮮語を話すんだ」とつぶやいた。「へぇー」と山本さん。

 「○○ちゃんのおばあちゃんは韓国のどこから来たんだろう。今度聞いてみて」


 オリニ会に顔を出しているのは、朝鮮にルーツを持つ子供たちだ。父母ともコリアンは少数派。父親が日本国籍を取得したコリアンで、母親が日本人という子供もいる。背景は様々でも、親が子供たちをオリニ会に送るのは、「何か伝えたいものがあるから」(山本さん)だ。

 現在、横浜市内の公立小、中、高校では約700人の朝鮮、「韓国」籍の同胞児童が学んでいる。しかし、国籍の欄にカウントされない同胞児童もいる。親が国際結婚をして重国籍状態にある子供や、すでに日本国籍を取得している場合だ。

 しかし、ツルミオリニ会のように子供たちが民族に触れる場が設けられている学校は、横浜市で小中高を合わせて十指にも満たない。小学校は中村小学校など数えるほどだ。市内の公立学校は500以上もあるため、大多数の子供にチャンスが与えられていないことになる。行政の助成を受けられない場合もあり、ツルミオリニ会もすべて支援者の手弁当でまかなわれている。

「基本方針」はあれど

 横浜市教育委員会は91年、「在日外国人(主として韓国・朝鮮人)にかかわる教育の基本方針」を作成し、朝鮮人児童が自分の母国や民族に誇りを持てる環境作りを提唱した。

 「基本方針」を作成した背景には、8割の通名(日本名)使用率に象徴されるように、大多数の在日同胞児童が自分の出自を隠さざるを得ないという悲しい現実があった。

 朝鮮名を名乗る同胞児童がクラスメイトに殴られたり、担任から罵声を浴びるなどの差別を受け、登校拒否におちいる事件も起きていた。

 「基本方針」は公立学校におけるガイドラインだが、作成後9年がたった今、「基本方針」が現場に浸透しているとはいいがたい。オリニ会の少なさや、依然として高い通名使用率がそれを物語っている。

 「保護者の要望があればオリニ会のようなものはいくらでも作れる。その声が出ないのがむしろ深刻な問題なんです。大多数の教員は『特別視するのはダメ』、『隠すのが当然』と思っているし、保護者の話を聞く場もない。保護者が我慢して言いたいことを言えない状況がある。親たちは子供に自分の出自を知らせるチャンスを失っている」

 30年にわたり現場で同胞児童の問題に取り組んできた山本さんは、「基本方針」が「絵に描いた餅」にならないためには、「保護者や子供たちの声を引き出す努力が必要」と強調する。

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