企業の人事戦略変化

即戦力重視の流れ


新卒採用、来春に小幅改善
社員もスペシャリスト志向


 主要企業の新卒採用は来春、3年ぶりに増加すると見込まれている。同時に、時期を限定しない中途・通年など、企業の採用方法が多様化に向かい、賃金構造も変化している。現況を見る。



 日本経済新聞社が全国の主要企業3733社を対象に行ったアンケート調査(第1次集計)によると、2001年度の採用数が決まっている1005社の予定人数は合計5万4713人で、2000年度を3.7%上回っている。2000年度は、前年度比で23.8%と大幅なマイナスになっており、来春は小幅な回復になる。

 来春採用の内訳を見ると、大卒が7.2%、短大・専門学校・高専卒も15.4%増える。だが、高卒は7.7%減と、厳しい状況が続く。

 業種別では、製造業が8.1%と大きく伸びているのに対し、非製造業は0.9%にとどまっている。

 小幅ながらも採用が伸びている背景としては、リストラをある程度終えた企業が、新たな事業展開に動いていること、業績が好調な情報技術(IT)企業群がけん引役になったことが指摘されている。

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 日経の調査ではまた、通年・中途採用について「実施中または計画中」の企業が30.2%に達し、大卒の理工系が16.7%と大きな伸びを示していることなどから、採用戦略が経験や情報技術を重視した即戦力志向に傾いていることが分かる。

 弁護士や公認会計士、起業経験者を厚遇し、条件によっては、一般新卒社員の2倍以上の年俸を支払うという三洋電機は、際立った例だ。

 この傾向は、賃金構造の変化からも見て取れる。

 日興証券は、初任給を昨年春よりも7割増の30万円に設定。同時に管理職への登用スピードも従来の12年から6年へと2分の1に短縮した。評価は完全に実績本位で、年功の要素は一切廃した。日立製作所やNECでも、定期昇給の考え方を捨て、同じ資格の社員でも能力差によって数倍の昇給格差をつける方向に進んでいる。

 またベンチャー企業では、社員や役員にあらかじめ決めた価格で自社株を買う権利を与え、株価上昇時の売却差益を報酬とするストックオプション制度が普及していると言われる。ほかにも、首都圏の居酒屋チェーン「和民」のワタミフードサービスは、3月で退職金制度を全廃。給与への積み増しもしない代わりに、子会社の社長処遇やフランチャイズでの独立を支援していく。

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 当の新入社員にも、意識の変化が見られる。昨年春、新卒社員を対象に行われたある意識調査では、自ら「スペシャリスト志向」とする人が90年の調査開始以来初めて半数を超えた。実力主義の給与体系を望むとする答も、全体の約7割に達したという。

 企業でリストラが進むなか、高度成長期にできた「終身雇用」「年功序列」は崩れ、新卒者の意識からも外れて来たようだ。雇用環境の変化が進み、大企業への就職がメリットに直結しにくくなっている部分もある。

 労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、昨年4月入社の新卒社員の初任給は、大企業を規模の小さい企業が上回った。前年度比伸び率でも、大企業が1%前後なのに対し、小企業は2%を超えた。

 こうした傾向が顕著になれば、企業の採用戦略ばかりでなく、人々の就職意識にも一層の変化をもたらすかもしれない。 

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