春夏秋冬
「納得できる説明が全くない」(産経)、「懸案先送りの対北朝鮮食糧支援」(日経)、「北朝鮮は支援に誠実な対応を示せ」(読売)、「戦略的な外交を展開せよ」(毎日)、「隣国の窮状に広い視野を」(朝日)。抜き出したのは、日本政府が食糧の対朝鮮人道支援を発表した翌8日付の、5大紙社説のタイトル
▼前3紙は「ら致疑惑」問題が存在するのになぜ支援をするのか、「北朝鮮は疑惑解明すべき」の論で、残り2紙も、人道支援に対する視点は前3紙とは違いきちんと押さえているものの、結果的には「ら致疑惑」に答えよ、の趣旨になっている。そして各紙とも、その論拠を世論に置いている
▼マスコミ研究者の間でよく指摘されるのが、よきにつけ悪しきにつけ、「世論は作られる」である。「ら致疑惑」とその「解明」が「世論」になり始めたのは、朝日放送プロデューサーが安企部が何年も極秘に囲っていた「安明進」なる「北朝鮮亡命者」から得た証言、「横田めぐみ」という少女を平壌で見た、という一言だった
▼その話を「北朝鮮追及」に執念を燃やす「現代コリア」が掲載し、代表の佐藤勝巳が警察関係者も参加していた新潟市内の講演会で言及。それをまた、彼と親しい国会議員が国会で取り上げ、その同じ日に産経、読売の夕刊、週刊「アエラ」が掲載した。これが「ら致疑惑」が「世論」になるまでの過程である
▼当時、間髪入れずに現地入りした友人いわく、「不思議なことにどこも現地取材をしていなかった」。警察関係者に「あんたが初めて」と言われて驚いたという。結論先にありき、である。(彦)