春夏秋冬


 びっくり仰天したニュースだった。90年11月、下校途中に行方不明になった当時9歳だった小学校4年生の女の子が、9年2ヵ月ぶりに保護されたというのだ。その間、わが子の安否だけを念じてきた両親の気持ちはいかばかりだったろうか

▼今年19歳になった女の子は、連れ出した男性の自宅に軟禁状態におかれ、その間、「家から1歩も外に出ていなかった」と話している。男性宅には母親が共に暮らしているが、女の子の存在にはまったく気づかなかったとも

▼このニュースを耳にした時、在日同胞の多くは、いわゆる「ら致事件」を思い起こしたのではないか。筆者はそうだった。場所は違うが同じ新潟県、「横田めぐみ」という名前がすぐ浮かんできた

▼できないのは男を女に変えることくらい、と悪名高い安企部が長く囲った後に、その下に足しげく通っていたテレビ記者を通じて飛び出した「北からの亡命者証言」によって、その存在が初めて明かされた。現代コリアの佐藤勝巳が、名前を発表するという「肉づけ」をして一人歩きし始めた

▼それから同様の事件が「7件10人」に上るという話が流布され、現代コリアはホームページにその一覧表を掲げ、次から次へと「ら致の恐れのあるケース」を加えた。朝・日国交正常化交渉が8回で中断に追いやられたのも、この問題だった

▼日本では、これまでの行方不明者が8万人に達するというデータがある。そのほとんどが居所がわかっていない。主権国家にあらぬ疑いをかける前に、足元の捜索を丹念に行うべきだということをこの事件は教えている。 (彦)