「太白三脈」刊行/分断の悲劇を壮大なスケールで描く


 500万部を越す南朝鮮の大ベストセラー小説「太白山脈」の日本語版(全10巻)が発売されている。

 現在、5巻が配本されたが、しっかりした情景描写や人物造型の巧みさで、読者をぐいぐいと小説の世界に引きずり込んでいく。

 物語の舞台は、全羅南道の小さな港町・筏橋(ポギョ)。

 日本の敗戦後、米ソ両軍の南北進駐が進むにつれ、政治路線をめぐる左右対立が激しさを増していくなかで、48年、軍の反乱による「麗水・順天事件」が起こった。筏橋では、一度は左翼勢力が町を掌握するが、すぐに追われる立場になる。住民同士が左右に別れて憎しみ合い、罪もない人々が殺されていく。

 左翼のリーダである兄と、彼への劣等感から軍や警察に協力し、左翼弾圧に躍起になる弟、この兄弟の確執を憂え、統一を願い中立の立場で生きようとする教師など250人にのぼる多彩な人物を登場させている。

 かつてないスケールで描き上げた小説の著者・趙廷來氏は、日本語版に寄せてこう述べている。

 「(朝鮮半島の)分断は、米ソの冷戦対決以前の、日本の植民地支配の遺産であり、その産物だということを『太白山脈』の読者は発見するはずだ」

 単行本が出た86年以後、「国家保安法」違反の疑いで検察が捜査に乗り出し、右翼団体から様々な嫌がらせが相次いだにもかかわらず、彼は歴史大河小説「アリラン」(全12巻)を上梓し、今はハンギョレ新聞に分断半世紀を主題とした長編小説「ハンガン」を連載している。ホーム社発行、集英社発売。定価=各巻2940円。