本の紹介

「山谷ブルース」
エドワード・ファウラー 著


経済繁栄の裏でくじけた希望

 近代日本文学を専門とし、日本語を自由に操る米国人の著者が、日雇い労働者が集い暮らす日本有数の「寄せ場」、東京・山谷に足繁く通い、住み込んで働きながらまとめたレポート。目的は、欧米人が日本人に対して持つ「無色で画一的」というステレオタイプに反論することだった。

 確かに、色彩豊かな人間模様が綴られている。早朝の街角で仕事を待つ男たちの群、季節の祭りの準備に奔走する組合員、彼らが語る悲喜こもごもの自分史―――。

 ただ、心を動かすこれらひとつひとつの記述も、この町を覆う重苦しい現実を織り成す細かいパーツに過ぎない。寄せ場の労働者は、大企業にとって景気変動の緩衝装置であり、労働力需給の調整弁だ。好況の恩恵に浴するのは最も遅く、不況の影響は真っ先に受ける。主流社会と縁遠い世界に見える山谷は、やはり私たちの暮らしと表裏の関係にあるのだ。

 山谷の物語は、著者が言うように、日本の経済的成功の裏で失われた希望と、くじけた夢の物語だ。(洋泉社・342ページ・税別2600円)

 ◇エドワード・ファウラー 1947年生れ。カリフォルニア大学アーバイン校教授