金融機関/中小企業開拓に本腰
金融機関が、中小企業との取引強化に向けた態勢を整えている。都市銀行は新商品の開発や情報提供サービスで新規・優良顧客の開拓に乗りだし、地方銀行は審査精度の向上に取り組んでいる。片や、もともと中小企業への融資をメインにしてきた信用金庫も、競争激化をにらんでベンチャー投資に向かう構えだ。取り組みの内容と背景を見る。
(金賢記者)
都銀/審査短縮、新商品も
都市銀行では、中小企業の資金繰りを支援する比較的小口の融資を取り扱っている。
3000万円が上限のさくら銀行「さくらビジネスローン」(期間1年)は、審査、与信、管理機能を東京と神戸に集中させることで、審査期間を従来の数週間から、最短3日に大幅に短縮。新規取引先も対象に含む姿勢だ。大和銀行は既取引先を中心に、類似の商品を扱う。
東京三菱銀行は、従来は1億円以上だった固定金利予約型商品を、1000〜5000万円の融資にも適用する。目先の低金利を享受しつつ、将来の金利上昇リス
クを回避できる点が特徴だ。
一方、住友銀行はインターネットを利用し、新しい金融商品や金利・為替相場に関する情報を、中小企業に無料で送信している。月間約5万件の利用があると言われ、取引先開拓につなげる意向とされる。三和銀行と富士銀行も、この春から同様のサービスを始める。
地銀/信用情報を共同管理
横浜銀行、東京都民銀行、名古屋銀行など地方銀行と第二地方銀行10行は、住友銀行や銀行用ソフト開発会社のデータ・フォアビジョンと共同で、中小やベンチャー企業の信用情報を管理する会社を、この3月にも立ち上げる。
取引先の売上高や利益水準、有利子負債状況などの財務データを持ち寄って、倒産確率の算出など審査に必要な情報を共有しようというものだ。他の大手銀行や有力地銀にも参加を打診しており、営業開始時までに、5万〜10万件の企業情報を蓄積するとされる。
従来は不動産担保を前提に融資してきた日本の銀行だが、最近では信用情報で不良債券化のリスクを分析し、それに見合った貸出し金利を設定する傾向が指摘されている。情報の共有で審査精度が高まれば、苦手だった小口融資に、銀行も力を入れて来そうだ。
信金/ベンチャー投信で対抗
信金業界はベンチャー企業開拓に乗り出した。
全国信用金庫連合会と11の信用金庫は、大手ベンチャーキャピタル(VC)の日本アジア投資、中小企業総合事業団とともに、ベンチャー企業向けの投資基金を設立した。出資総額は25億円で信金が半分を負担。設立後7年以内の企業を対象に、株式公開などを支援する。
これまでも、個々の信金がVCに投資した実績はあるが、業界をあげてベンチャー育成に取り組むのは初めて。縄張りであるリテール(小口金融取引)に踏み込んで来た、都銀や地銀への対抗策の色合いが強い。
運用先の争奪幕開け
再編の活路、地域に求める
金融機関がこぞって中小企業とのリテールを強化するのは、金融ビッグバンや経済構造改革による必然的な流れだ。日本政府は、起業者の動きやすい社会の構築に向けて証券市場の活性化を図っているが、これは企業に銀行融資依存からの脱却を促すことに通じる。
昨今の「貸し渋り」は、金融機関が自己資本比率改善のための窮余の策として取ったものだが、中長期的には、集めた資金の運用先確保こそが、金融機関の最大の課題と言える。
大企業はすでに80年代から、社債発行などによる資金調達に軸足を移している。大手経済紙の編集委員は、「戦後、主力産業に資金を供給すのが使命だった大銀行は、次の仕事をみつけられずに資金をダブつかせている」と指摘する。
今後、一部の都銀を除いた大多数の金融機関は、中小企業群や地域経済を基盤とするリージョナルバンクの道を選ぶしかないようだ。例えば大和銀行は、海外から撤退しながら関西圏での中核銀行を目指しているとされる。
そこで重要になるのは、「カネを貸せる」優良企業を探し出し、顧客として確保することだ。リージョナルバンクを目指しながら、運用先を見誤って破たんした北海道拓殖銀行の例は、記憶に新しい。
貸出し先の選別・争奪戦は、すでに始まっている。企業の側も、いっそうの体質強化が求められそうだ。