私の会った人
藤忠さん


 1908年生まれの92歳。「現役考古学者のなかで最高齢」と言われている。近年まで世界各地の遺跡を回り、年に100日以上を海外で過ごす。著作も数え切れないほど膨大な数に上る。

 「とにかく若い」というのが第一印象だ。自宅に伺うと門まで自ら迎えてくれ、お茶も出す。「大御所」と呼ばれ、重々しい肩書きも星の数ほどあるが、気さくな人柄。

 一昨年5月初旬には大正大学創立70周年の記念事業として、開城の高麗寺院・霊通寺を訪ね、現地で日朝共同発掘の鍬入れを行った。「岩を砕き、水溜まりを越え、険しい山道を徒歩で1時間。遂に文献などで読んで憧れていた由緒ある寺院跡に立つことができ感動しましたよ」と話す。

 みずみずしい感性と記憶力に驚かされる。「この寺は高麗時代の高僧・大覚国師の碑も残り、当代随一の名僧らが学問に励み、詩人たちが競ってその美しい景観を歌に詠んだ歴史に名高い所。本当はテントで1泊でもして、感激に浸りたかったのだが、狼が出没するということで断られた」と残念そうに語る。

 斎藤さんの考古学界での存在感は「巨大な老樹を仰ぐにも似たものがある」(毎日新聞)。老樹は、いつまでも若葉が青々として美しい。斎藤さんも、瑞々しい心で、共和国の遺跡の旅を続けている。

 壮者をしのぐ研究と著作。考古学70年の道を支え続けているのは、人間に対する熱い観察力と各民族が生み出した文化に対する深い敬愛の心であろう。   (粉)