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オーバーステイ外国人の「在留特別許可」、「定住化」現実に基準拡大
超過滞在(オーバーステイ)状態の外国人に法相の特例として認められる「在留特別許可」の基準が事実上緩和された。昨年9月、国外退去させられる危険を冒して東京入国管理局に一斉出頭していた21人のうち、9日までにイラン人家族ら12人に許可が下りた。これまでは日本人配偶者がいる場合以外ほとんど認められていなかったが、今回初めて、滞日10年近くが過ぎて生活基盤が日本にあること、子供たちが本国で生活するのが困難なことなどが考慮されたもの。日本の入国管理行政が、日本経済の底辺を支えるオーバーステイ外国人27万人が定住化していく現実に押された形だ。
集団申請のイラン人家族たち
滞日10年余、基盤は日本/安定した「普通の暮らし」
昨年9月、在留特別許可を集団申請した21人の内訳は、イラン人4家族と単身者1人、ミャンマー人1家族、バングラデシュ人単身者1人。8人が子供で、小中高校生の5人は日本の公立学校に通う。日本生まれの子も3人いる。
日本での滞在期間はほぼ10年だ。学歴も比較的高く、労災にあい治療中の単身者2人以外は、建設業経営者や製造業に雇用されている人などで、月収は20〜30万円台。生活水準は決して高いとは言えないものの、比較的安定した「普通の暮らし」をしており、ステレオタイプな「不良ガイジン像」とは大きくかけはなれているのが分かる。
健康保険に加入できないため、病気や怪我が一番大変だ。もちろん、摘発されたら収容、強制送還が待っており、きわめて不安定かつ無権利な状態に置かれている。
諸外国では滞在年数や犯罪歴の有無など一定の条件を満たす場合、不法滞在状態の外国人にも一括して在留許可を認める「アムネスティ」制度が定着しつつある。今回、行動を起こした外国人らと支援団体もこうした制度の導入を求めていたが、日本政府に認める気配がないことから、合法的存在となるための現在唯一の方法である在留特別許可の集団申請に踏み切った。昨年12月には第2陣の17人も出頭した。
彼らの行動が、閉鎖的だった日本の入国管理行政を大きく揺るがしたことになる。しかし日本政府は、今回のように譲歩する一方で、法相の裁量ひとつ、つまり恣意的に運用できる在留特別許可制度自体は手放そうとしていない。さらに、18日施行の新たな「出入国管理及び難民認定法」(入管法)では「不法在留罪」を新設するなど、むしろ取り締まり強化をはかっている。
つまり、「利益になる外国人は受け入れるが、利益にならない外国人は排除する」という入管行政の基本姿勢自体に変更のないことがうかがえる。在日同胞にも決して無関係ではない。
日本政府・法務省
背景に「少子・高齢化」の進行/流れは「移民」受け入れへ
法務省はこれまで、日本人との結婚以外のケースなどで許可すれば、さらなるオーバーステイを助長すると警戒してきた。しかし、彼らを安価な労働力として利用する一方で無権利状態に置いていることに、内外から批判の声が高まっていた。今回の措置は、日本政府がこうした声に押された結果とも言えるが、この流れは、すでに政策全般に及ぼうとしている。
法務省では現在、入管法に定められた「出入国管理基本計画」を8年ぶりに改訂中だ。公表はまだだが、発表済みの骨子を見ると、「国際化」と「社会の少子・高齢化」をあげ、とくに外国人労働力の需要拡大要因を強調。不正規在留者の正規化についても、「在留特別許可」の枠内で限定的ながら盛り込んでいる。
日本には現在、27万人近くのオーバーステイ外国人が住んでいる。不況下でも、「3K」(汚い、きつい、危険)職場を抱える零細・小企業における彼らへの需要はなくならない。今後、少子高齢化が進んでいけばなおさらで、最近では新たに介護現場からの要請も出てきている。
首相の諮問機関である「21世紀日本の構想」懇談会は1月に提出した報告書で、「移民政策」の必要性について強調した。同様の声は財界を中心に多い。国連は1月11日までにまとめた人口動態統計の概要で、95年に約8700万人だった日本の労働力人口が2050年には5700万人まで低下すると予測し、95年の水準を維持するには2050年まで毎年約60万人の移民受け入れが必要だと指摘した。日本が「移民受け入れ容認国」に政策転換していくのは不可避な流れだ。
98年末の統計によると、日本の外国人登録者数151万余人のうち在日同胞(朝鮮・韓国籍)は64万人弱。構成比は約42%で5割を割って久しい。茨城、栃木、富山、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀の9県ではブラジル人や中国人、フィリピン人が同胞を上回っている。
近い将来、日本の外国人「地図」は大きく変わり、同胞社会を取り巻く環境は激変するだろう。 (韓東賢記者)
在留特別許可とは?
「特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき」などに法相が在留を特別に許可することができるというもの。「出入国管理及び難民認定法」(入管法)50条で規定されている。
80年代までは、歴史的経緯やすでに日本に住む血縁者とのつながり、日本人や永住者との結婚などを考慮して朝鮮半島出身者に適用されるケースがほとんどだったという。80〜90年代のバブル期以降は諸外国から低賃金労働者として渡日する、いわゆる「出稼ぎ」のニューカマー外国人が急増し、彼らが日本人との結婚を理由に申請、徐々に認められるようになった。しかし、基準は明確にされていない。