私の会った人/羽田ゆみ子さん


 すでに10万部のロングセラーになっている「教科書に書かれなかった戦争」シリーズで知られる出版社・梨の木社の代表。

 91年、戦後半世紀近くの沈黙を破って、元「従軍慰安婦」の金学順さんが日本軍の戦争犯罪を告発し、この事実を歴史に刻むべきだと語った力強い言葉と信念に心を揺さぶられたという。

 「日本の過去を問う鋭い声は、日本人にとって耳が痛い事かも知れません。でもそれにきちっと向き合い、償ってこそ、日本は新しい出発ができると思う。金学順さんの訴えに1人の出版人として、何とか応えていきたかったので、今度『ハルモニの絵画展』を出せて心からうれしく思う」

「マイナーな出版社だが、固いテーマの本」で、真っ向から勝負を挑む。その転機となったのが1982年の教科書検定問題だった。当時、南北朝鮮、中国はじめアジア全域から抗議の声が噴出した。

 それまで勤めていた出版社を辞め、自分で会社を設立したのは、「この問題に自分のテーマとして一生をかけて取り組みたいと思ったから」。社名は、故郷、信州の生家の家号。

 「(出版の)取り次ぎが硬い本を取らない」状況の中で、悪戦苦闘が続いた。市民グループのネットワークや集会にも足を運んで、地道に本を売る努力を重ねてきた。「目に見えない色々な人たちに支えられています」と常に周りへの気配りを忘れない。

 だって、たたかいは楽しくなくてはね、の言葉が印象的だった。(粉)