そこが知りたいQ&A/米大統領選と朝鮮半島情勢は
時間差あれど関係改善へ/他の選択できぬ米、共和党政権でも
Q 今年、米国で大統領選挙が行われるが、朝鮮半島情勢に与える影響は。
A 米国では憲法で大統領の任期を4年、2期と定めている。したがってクリントン大統領の3選はなく、民主、共和いずれの候補が当選しても新政権が誕生することになるわけだが、結論から言うと、政権が交代しても基本的に現在の対朝鮮政策を踏襲するものと思われる。多少の時間的ずれはあるが、朝米は関係改善に向けて進むだろう。
Q その根拠は。
A 米国には朝鮮に対して3つの選択肢がある。第1に軍事的手段で朝鮮を屈服させること、第2に経済封鎖を続けて朝鮮を崩壊させること、第3に朝鮮と関係を改善することだ。
第1の方法は、93年の核疑惑のときに検討された。「核開発疑惑」のある施設を空爆するという内容だが、朝鮮との全面戦争を意味し、そうなると、米国は無傷でいられなくなる。
朝鮮半島の緊張がもっとも高まった94年5月、ホワイトハウスでの会議で米軍指導部は、クリントン大統領に「朝鮮半島で戦争が勃発(ぼっぱつ)すれば、最初の90日間で米軍兵士の死傷者が5万2000人、韓国軍の死傷者が49万人に上るうえ、北朝鮮側も市民を含めた大量の死者が出る見通しだ。財政支出も610億ドルを超えると思われるが、同盟国からの資金供給はほとんど期待できない」と報告している。
第2の方法は、いままで米国が実施してきた。金日成主席の逝去、ソ連およびヨーロッパ社会主義国の崩壊、水害など度重なる自然災害によって、朝鮮は遠からず崩壊すると米国は考えていた。しかし朝鮮は崩壊しなかった。
朝鮮政策調整官に任命されたペリー元国防長官は、昨年9月に「ペリープロセス」と呼ばれる対朝鮮政策見直し報告書を発表したが、彼は結論として「米国が圧力を加えたとしても、朝鮮は崩壊しない」と述べている。
第3の方法は、「ペリープロセス」に基づいて、朝鮮との関係改善を段階的に進めていくというもの。朝鮮がミサイル発射実験を中止すれば米国が対朝鮮制裁の一部を緩和(短期的目標)し、朝鮮がミサイル関連技術輸出規制(MTCR)に加盟して核およびミサイル開発を完全に中断すれば朝米関係の正常化を模索(中期目標)し、最終的には朝米修交を通じた朝鮮半島冷戦構造の解体をはかるとしている。
この「ペリープロセス」は、米国にとってベスト(最良)ではないがベター(次善策)な政策だと考えられる。米国にとってのベストは、犠牲を払わないで朝鮮に親米政権を樹立することだが、それは不可能だ。
Q 「ペリープロセス」に対する朝鮮の反応は。
A 公式的にはない。また「ペリープロセス」そのものも全容が公表されているわけではないので、なんとも言えない。ただ、いまのところ朝米双方は、ワシントンで高位級会談を開催することで基本的に合意しており、この会談では朝米の新たな関係が構築されるものと思われる。
Q 94年の朝米基本合意文で米国は、朝鮮に軽水炉2基の提供と関係改善を約束した。共和党候補が当選した場合、この約束は守られるのか。
A 朝米基本合意文は、正式な外交文書、約束だ。だから政権が替わったからといって反故にするわけにはいかない。
Q 民主党に比べて共和党は保守強硬的だと言われている。現実に共和党が多数を占める議会では、朝鮮に対して強硬政策を取るべきだという声が上がっているが。
A ニューヨーク・タイムズが報じたところによると、共和党の有力候補とされるブッシュ・テキサス州知事は、外交政策チームを強硬派で固めている。レーガン政権時代の国防次官補リチャード・アーミテージや、イラクのフセイン政権を転覆させるために米軍兵力を動員して反乱軍を支援すべきだと主張しているポール・ウォルフォビッツ元インドネシア駐在大使らが含まれている。
だが、先ほど指摘したように、時間的ずれはあっても結局、米国は朝鮮との関係改善を進む方向にいかざるを得ないだろう。
Q 米大統領選挙の仕組みが、いまひとつよく分からないが。
A 米大統領選挙は、間接選挙で行われるのだが、基本的に各党の候補者を絞る党ごとの予備選挙、中間選挙人を選ぶ選挙、選挙人による大統領選挙の3段階になっている。
このうち複雑なのは候補者を絞る予備選挙で、州によってプライマリー(予備選)とコーカス(党員集会)の2通りがある。
プライマリーは有権者が直接、候補者に投票する方式で、1日にニューハンプシャー州で行われた選挙がこれにあたる。コーカスは、数週間、数ヵ月にわたって郡単位の党員集会を開き、州の党員集会に出席する代議員を選出し、さらに州党員集会で全国大会に出席する代議員を選ぶという手順だ。先月アイオワ州で行われた予備選がそうだが、党幹部の意向や非民主的だという理由から、最近はプライマリー方式を採用する州が増えている。
Q 「スーパーチューズデー」という言葉をよく聞くが。
A 3月上旬に米南部の諸州が一斉に予備選を実施し、全代議員数の半分以上の動向が決まり、3月末には事実上の統一候補が判明するというので、この名前がついた。今年は3月7日と14日(いずれも火曜日)が「スーパーチューズデー」になる。
Q 実際に大統領が決まるのは。
A 民主党は8月中旬、共和党は7月末から8月上旬にそれぞれ全国大会を開いて、統一候補を正式に決める。そして夏期休暇明けの9月上旬から本選挙選のキャンペーンがはじまり、11月7日に大統領を選出する選挙人選挙が行われる。中間選挙人はあらかじめ誰に投票するかを明らかにしているので、この選挙人選挙によって、事実上、大統領がきまる。