児童文学から「日本の朝鮮観」探る
「朝鮮のある児童文学風景」/著者・韓丘庸さんに聞く
<はん・ぐよん> 1934年、京都府向日市生まれ。神戸外国語大、天理大卒。朝鮮作家同盟、在日本朝鮮文学芸術家同盟、日本児童文学者協会などに所属。サリコッ児童文学会、北十字星文学の会主宰。現在、松山大と大阪外国語大で朝鮮文学や朝鮮語学の講師を務める。長編「ソウルの春にさよならを」(朝鮮青年社)など著書多数。統一評論で「南北の子どもがともに読む児童文学の双曲線」連載中。 |
変わらぬ「べっ視」の視点
歴史の事実を直視せず、欠けた「加害者の反省」
在日同胞児童文学界の第1人者として、創作や評論、後進の育成など幅広い分野で精力的な活動を続ける韓丘庸さん(65歳)。近著「朝鮮のある児童文学風景」(あまのはしだて出版)では、1990年代の日本児童文学における朝鮮の描写から、日本人の対朝鮮観の特徴を探っている。膨大な資料と40年の経験に裏打ちされた、絶好の解説書だ。「2000年代という新たなミレニアムを、子供の文学の時代にしたい」と語る韓さんに話を聞いた。
低い同胞の関心、教育現場で活用を
――本書の内容はどのようなものか。
韓 90年から99年までに出版された日本児童文学のうち、朝鮮を扱った作品や部分的に朝鮮と絡んだ作品、約130点を選び、簡単なコメントを付けた。祖国解放後から80年代までの作品を取り上げた「朝鮮を理解する児童文学100冊の本」(エスエル出版会)の続編に当たる。
取り扱ったのは長・短編小説をはじめ、民話、童話、絵本、翻訳、漫画、それに日記や手記などのノンフィクション。南北朝鮮の作品の翻訳本や同胞の作品もあわせて紹介した。
――出版を決めたのはなぜか。膨大な量の作品を細かく分析、整理するのは、とかく根気の要る大変な作業だと思うのだが。
韓 子供たちが文学に親しめるよう、朝鮮学校で生徒指導用の資料に使ってほしいという思いからだ。
日本学校でも朝鮮学校でも、児童文学への関心は低く、児童文学が教育の側面的な発展に必須であるという意識も薄い。とくに同胞の場合、同じ民族文化でも歌や舞踊と違い、児童文学には目が行き届かない。一昔前は、児童文学と言えば「子供向けの文学なんて」と物笑いされたもの。それほど造詣が浅いのだ。
本書では、日本学校に通う同胞学生や民族学級の教師など幅広い層の人が気軽に手に取れるよう、平易な文章を心掛け、イラストを多用したりジャンル別に整理して読みやすくした。すべての作品に著者名や出版社名、価格、問い合わせ先を併記したので、良書探しにも役立つことと思う。
朝・日相互理解の一助になれば
――「児童文学の中の朝鮮」を研究する過程で、見えてきたものは何か。
韓 植民地支配から祖国解放を経て今に至る時代の流れを見た場合、日本人の朝鮮を見る目は一見「理解のあるもの」に変わってきているように見える。だが、今回、調べた作品を読んでみると、実は「朝鮮べっ視」という考え方は本質的にまったく変わっていないということが分かる。
詳しい内容は本書を読んでもらえれば分かるが、これらの作品の記述の多くは、日本と朝鮮との間にある歴史的背景、つまり植民地支配という事実を真っ正面から捉えず、加害者側に立ち、反省することもない。むしろ隣国をべっ視した表現が少なくない。
民族教育に対する日本での差別的処遇も、これと無関係ではない。朝鮮差別が教育差別につながっている側面もあるからだ。だからこそ、私たちがこうした差別に反対し、たたかう必要が生まれるのだ。
児童文学でこのような内容では、相互理解は難しい。このような現実があることを日本人にも同胞にも感じ取ってほしいし、教育の場で、家庭で愛読してほしい。本書が朝・日友好の一助となれば幸いだ。
「生きる」メッセージ性に魅力感じる
――数ある文学のレパートリーの中、児童文学の世界を選んだのはなぜか。
韓 児童文学とは、生き方を子供たちに示す「向日性の文学」。そこには大人の文学のような暗い世界はなく、細かな心の機敏を描き出すものでもない。この「生きる」という強いメッセージ性にひかれた。
子供たちは同胞社会の未来を担っている。だからこそ、生きる意味を問う児童文学は民族教育において決して無視できないものだ。ところがこれまでは、この分野を大事にしてこなかった。今一度、児童文学を見直し、児童文学の素晴らしさを伝える必要性を感じたのだ。
――文学研究にとどまらず、朝鮮の民俗を幅広く研究しているが、今後の活動の予定は。
韓 「朝鮮の子どもの遊び博物館」(東方出版)では、朝鮮の子供の遊びのルーツを探り、その歴史的経緯と成長過程を追った。また「朝鮮歳時の旅」(同)では、古くから伝わる朝鮮の民俗歳時の中から、ポピュラーで素朴な年間行事、祭祀(チェサ)、遊びなどを12ヵ月の章に分けて紹介した。本書を含め、どれも資料的価値は十分あると思う。こうした研究は続けるつもりだ。後進の育成にももっと力を入れたい。
願わくば、近いうちに、「在日朝鮮人の児童文学選」のような形で本を出したいと思う。
(柳成根記者)