私の会った人/大原富枝さん
作家の大原富枝さんが1月27日、亡くなった。87歳だった。7年前、お目にかかったことがあったが、若々しい仕事ぶりに圧倒されたことを思い出す。若い頃に結核を患い、故郷の高知で10年の療養生活をした。その頃、病気への偏見は凄まじかった。「道を歩いていても、擦れ違う人が『うつる』といって、鼻をつまんで避けていった」。約束していた人とも結婚できなかった。「人間の小さい裏切りや小さい意地悪は許せるが、人の生涯を壊滅させるような裏切りは許せない」と語っていた。
その後上京し、苦しい道を通り抜けて「婉という女」「地上を旅する者」などの代表作を次々と発表。運命に翻弄される人間を見つめ、生命の輝きをうたう作品として高い評価を得た。
虐げられている者への熱い共感を行動でも示した。「政治犯として韓国で捕えられた徐勝、俊植さん兄弟の支援運動もずうっと続けてきました。新宿で2000枚のビラを配ったこともありましたよ。ご兄弟も偉いけど、お母様は本当に偉かった」。長い救援運動の中で1人、また1人といつの間にかやめていく人もいたが、最後までやり通した。
「従軍慰安婦」問題についても「各国から、厳しい追及の声が上がっている。それでも日本政府は女性たちをどのように動員したか『知らぬ、存ぜぬ』を決め込んでいるが、そんな嘘は通じない」と語っていた。
毅然とした女の一生を貫いた人だった。心から哀悼を捧げたい。(粉)