2000 WOMAN/女の仕事

環境問題研究者  尹順子さん(46)
女性、朝鮮人ということで2倍、3倍努力した


  1953年生まれ。朝鮮大学校理学部卒。東京大学農学部農芸化学科研究生を経て東京都立大学理学研究科修士課程修了。日本環境化学会評議員。理学博士。環境カウンセラー。東京都在住。

重い社会的な責任、睡眠は約4時間、調査に妥協はしない

 尹さんは現在、民間の環境調査会社である(株)環境管理センターで環境基礎研究所副所長の重責を担っている。環境問題一筋のエキスパートだ。現在は1つの研究テーマを追うことはなくなり、若い研究者たちのマネージメント役、研究テーマを与えディスカッションを繰り返しながら若い研究者を育てるという役割を担う。

 「だからといって研究の第一線から遠ざかった訳ではないんです。すべての研究内容を把握しなければならないので、たくさんのテーマに取り組める楽しさがあります」とあくまで研究者としての姿勢を貫く。

 実際に北海道から沖縄まで日本全国の廃棄物の最終処分場を回り、安全性の調査方法を指示するなど現場での仕事は多い。尹さんは「基準をクリアしているから大丈夫」という従来の考え方ではなく、実際に有害物資は漏れていないか、漏れているとすればどこへ流出していくのかなど、現地の地形などを見ながら具体的な調査方法を与えていく。「仕事に妥協はしない」。これが信念である。

 尹さんのこれまでの主な研究成果に多摩川の水質調査がある。川の化学物質汚染の状況や周辺の環境への影響などを5年間にわたって調査した。自分の足で川の周辺を歩く。何ヵ所かポイントを定めて水質を調査するのだが、同じポイントでも時間帯や季節によって水質が変化するので大変だ。川の水でミジンコを育てて子がちゃんと生まれるかなどを実験してみる。工場や人口の分布状況を調べる。調査には忍耐がなによりも大切だ。多摩川の水質調査は、96年の日本環境化学会の論文賞に輝いた。

 「政府の基準をクリアしているから大丈夫という単純なものではない。発ガンという面では大丈夫でも免疫不全など他の疾患が発生するとか、1つひとつの化学物質なら大丈夫でもそれが複合されると悪影響を及ぼすとか、問題は複雑で分からないことだらけです」と環境問題の難しさを語る。

 一方で、自分の考えが行政の環境保護政策に一定の影響を与える立場にいるという、社会的な使命の重さもひしひしと感じている。現在の環境行政に対してはこう注文する。

 「ダイオキシンにあまりにも関心が集まり、お金もかけられています。しかし、車の排気ガスなど、もっとリスクが高い問題がほかにもたくさんあります。より広い視野で見ないといけない。誰が悪いというのではなく、国と企業、個人がそれぞれの役割をきちんと実行することがこれからの環境保全には一番大切です」

 家庭では2児のオモニ。初めの子供は障害を持って生まれた。「仕事をあきらめようと思ったことがありました。でも理解のある家族や同僚に恵まれて続けることができました」。

 研究と家事に追われ、睡眠時間は4時間程。「女性、朝鮮人だということで他人の2倍、3倍努力してきた」と振り返るが、「頑張っているという意識はない。仕事が楽しくて、楽しくて。だからやって来れたんだと思います」と語る。

 夢は「若い同胞の研究者らと一緒に朝鮮を訪ねて、環境問題で貢献すること」だと微笑んだ。