「近代朝鮮の開拓者」の連載を終えて

金哲央

アイデンティティーの確立、

人物史の掘り起こしを


 「近代朝鮮の開拓者」は昨年10月6日号から始まり、今年12月20日号、20世紀とともにその連載を終えることになった。本欄毎週水曜日号に連載されたのだが、この間、愛読し、様々な意見や感想を寄せてくれた読者に、紙面を借りて感謝の言葉を述べたい。

計49人を紹介、読者の声に励まされて

 「ちょっと評価のしすぎではないのか」とか、「まったく知らなかった。わが国にもそんな立派な仕事をした人がいたんですね」など、その時々に寄せられた読者の声に励まされて、今まで連載を続けることができた。

 連載の一覧を見ると次のとおり。

 ○企業家=12人
 ○芸術家=12人
 ○文化人=14人
 ○科学者=6人
 ○女性=5人

 計49人であるが、年末が近づいてきて科学者と女性の人数が少なくなったのが残念でならない。

 筆者が紙上に朝鮮の人物を紹介するのは、実は2度目であって、かつて「朝鮮時報」に「歴史を彩った人物たち―朝鮮名士物語」(76年10月〜77年12月)として、中世以後から近代にかけて科学者、愛国名将、実学者、芸術家、開化派の人々、女性たちを紹介したことがある。その時も熱心な読者に励まされて連載を続け、それは後に朝鮮青年社で「朝鮮名士物語」として出版された(84年1刷、95年2刷)。これと、上記連載物を併読すれば、よりいっそう人物たちの人間像がくっきりと浮かび上がるに違いない。

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 不幸にして民族教育を受けられなかった筆者は、朝鮮史を独学で学び、日本の大学で哲学や思想史を専攻した。その過程で朝鮮の歴史上の人物たちに強い関心を持つようになった。

 朝鮮大学校に勤務してからは朝鮮思想史上の人々を調べるため、様々な参考文献を集めていった。

 その際、もっとも影響を受けたのは、北南を通じてわが国の最初の思想通史として知られる「朝鮮哲学史」(上・鄭鎮石、鄭聖哲、金昌元共著 科学院出版社 1962年)であった(後に日本でも翻訳出版された)。

 同書に刺激を受けながら、これと並行して「朝鮮の名士」(金日成総合大学歴史研究所編、科学院出版社・62年)も読み進んでいった。同書は、古代から開化期までの人物78人を、北を代表する学者たちが全力を傾けて執筆した、清新の気あふれる大著である。

 また、解放直後、南の良心的な研究者たちが力を合わせて刊行した「朝鮮名人伝」(上、中、下 朝光社 48年)も入手することができた(三国時代から李朝末期までの100人を紹介)。

 南では、重厚な「国史大事典」(上、下 李弘植編・知文閣 63年)が出版され、また、70年代に入ると伝記全集「韓国の人間像」(全6巻、新丘文化社)なども刊行され、歴史的人物に対する理解を深めることになった。

 そのほか、筆者が連載中に参照した本としては、「韓国近代人物百人選」(東亜日報社)、「発掘 韓国現代史人物」(全3巻、ハンギョレ新聞社、日本語抄訳「山河ヨ、我ヲ抱ケ」上、下 解放出版社)、「韓国企業家史」(趙ギヨン著、博英社 73年)、「人物女性史」(パク・ソクプン、パク・ウンボン著 セナル)などがある。

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 筆者は実は祖母の名さえ知らない。下宿生活や勤務のため父母と離れて暮らしながら父母のルーツを聞く機会すら失ってしまった。年とって、それが罪悪感とさえなっている。自己のアイデンティティーの確立のためにも、アボジの時代、祖父の時代の人々と、その足跡を知り、それを書きとめておくことが大切だと思われる。亡国の時期があったためか、たった数百年前の有名な人々の足跡すら不明である。例えば大東輿地図を作った金正浩の生涯についてわれわれは何も知らないのである。十九世紀の人であるにもかかわらず。

 このようなことを繰り返さないためにも、人間のことに注意をはらい、その記録にも関心を持っていきたいと思うのである。(朝鮮大学校講師)

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