2000年 民族教育権の現状
日本政府、文部省は、朝鮮学校を「各種学校」の枠に押し込め、不当な制度的差別を続けている。差別的な状況は一朝一夕では改善されないだけに、今年も各地では地道な取り組みが続けられた。各地の運動から今後の展望を探る。(張慧純記者)
[公的補助] 大阪府に制度的保障要望 朝鮮学校に対する日本政府の公的補助は、一切ない。地方自治体が独自に助成を実施しているが、私立学校の10分の1程度のレベルに止まっている。その一因は、外国人学校、民族教育そのものを保障する法律がないからだ。 このことから、総聯大阪府本部は今年9月、大阪府に対して1つの要望を行った。 要望の内容は、府が独自の外国人学校施策を定め、民族教育の権利を制度的に保障して欲しいというものだった。 現在、府は98年に制定した「人権尊重の社会づくり条例」に基づき、人権施策を総合的に推進するための「基本方針」(来春制定の予定)を策定中で、府内の人権団体を招いてヒアリングを行っている。総聯代表らは、この席上で要望を行ったのだ。 朝鮮学校に対する大阪府の助成金は全国的にもトップレベル。府は国庫補助がない中で、民族教育を保障する「国と大阪府との役割分担はおおよそ半々」(96年、私学課係長、大阪府外国人問題有識者会議)との認識を示している。しかし、朝鮮学校に対する府の助成額は私立学校の30%に過ぎない。総聯大阪は、役割の範ちゅうを具体的に明言した、府の積極的な発言を生かすためにも、民族教育が制度的に保障されるべきだと判断したのだ。 在日本朝鮮人大阪府教育会の蔡成泰副会長は、「日本政府に外国人教育に対 する積極的な取り組みがない中で地方が具体的な処置を取るよう、積極的に求めていく必要がある」と話す。
[運動に幅] 外国人学校とスクラム 外国人学校とスクラムを組むことで、日本の制度的差別の是正を求める動きも顕著だった。 兵庫では、県内の外国人学校が阪神・淡路大震災以後、兵庫県外国人学校協議会を結成し、処遇改善に取り組んできた。同協議会は、毎年県に対して要請を行っており、助成金は発足当時から県で三倍、神戸市で27%増額した。国連人権委員会にも出席し、差別是正を訴えた。 今年も創立5周年の記念イベントを開いたり、記念誌を発行するなど精力的に活動。今後も外国人学校に対する制度的差別の是正を求めた日本弁護士連合会の勧告を実行させるため、運動を続けていく。 一方、大阪市内では今年の10月、朝鮮学校、外国人学校、日本学校の交流会が開かれた。朝鮮学校のみならず、外国人学校全体の教育権利を拡大するきっかけにしようと企画されたイベントで、大阪市など37団体から後援を受けた。交流会では、大阪中華学校、神戸市の聖ミカエル国際学校が参加し、独自の文化を育む教育の豊かさをアピールした。このような交流会は今回が初めてだが、交流を通して中華学校と朝鮮学校がともに保護者補助金を求める動きも出てきた。 また、神奈川朝鮮初中高級学校も来年、県内の外国人学校と交流を行う予定だという。 民族教育の権利を獲得するうえで、日本市民らの協力は不可欠だ。兵庫、新潟、京都ではすでに「朝鮮学校を支援する会」などが、活動を進めている。 千葉では、全国で初めて女性議員らによる「朝鮮学校を支援する千葉県自治体女性議員の会」(代表=栗山栄子県議)が発足(10月)。福岡・北九州地域では、「朝鮮学校を支える会」(会長=服部弘昭弁護士)が結成(11月)された。埼玉でも来年1月に「支持する会」が発足の予定だ。 これらの団体は、民族教育に関するシンポジウムや公開授業を主催している。 同胞学生らで結成される「民族学校の処遇改善を求める全国連絡協議会」(民全連)は、今年の6〜10月、すべての大学を対象に、民族学校卒業生の受験資格を認定しているかどうかを調査した。 文部省は昨年7月、朝高生に大学入学資格検定(大検)を解禁したが、これはつまり、朝高生の大学受験には大検合格を前提とするという決定だった。これにより、従来は朝高生の受験を認めていた約5割の公私立大の中で、文部省の見解に従う大学が出てくる可能性が生じてきた。その確認のため、3年ぶりに調査を実施することにしたのだ。 調査結果は、近日発表される予定だが、朝高生の受験資格に新たに大検を課した大学が数十校あった。民全連では、「後退」した大学を把握した上で、個別具体的な運動を展開していく方針という。 |