在日朝鮮人の20世紀D
同胞社会のネットワーク構築
地域社会の拠点、生活綜合センター
世代交替が進み、生活様式が多様化する同胞社会に対応するには、地域コミュニティーの構築、同胞ネットワーク作りが重要なキーワードになる。 総聯は、95年の第17回全体大会で、同胞法律・生活相談センターを設け、同胞たちの権利擁護に一層力をいれつつ、支部を中心とした同胞生活をサポートする取り組みを強化していくことを確認した。 そして99年から、それをさらに拡大、発展させた同胞生活相談綜合センターを各地に設置することを提起。その数は現在、142ヵ所にもおよぶ。生活・法律問題など、センター所属の専門相談員らが同胞の抱える悩みに親身に対応している。 「夫の死後、収入もなく、体も不自由。生活保護はどうすれば受けられるのか」、「海外で倒れた際に保険は利くのか」…など、センターへの相談は多岐にわたっている。 総聯は、これまで獲得してきた権利擁護闘争で得た成果に満足することなく、同胞により密着した「いざとなったら頼れる場所」という、地域の拠点を目指している。 同胞社会における福祉問題、とくに高齢者・障害者問題への取り組みが強調されたのは、98年の総聯第18回全体大会だ。 すでに、東京を中心とした障害者の家族を持つネットワーク組織「ムジゲ会」は、同じ悩みを持つ家族が、情報を交換し合おうと、九五年に発足していた。 ムジゲの活動が全国に広がるなか、今年8月には大阪で、同胞障害者の家族らによる交流会「ムジゲin大阪」が行われた。 愛知でも今年11月に障害者ネットワーク組織が発足し、広島、大阪では2001年に会を立ち上げる準備を進めている。 高齢者問題への取り組みも、川崎を初め各地で活発に行われてきた。こうした動きを背景に今年3月、同胞高齢者の集まりである長寿会の活動をサポートし、障害者ネットワークの環境作りを推進していこうと、全国に先駆けて、総聯兵庫県本部が兵庫同胞福祉問題協議会を発足。また東京・江戸川支部が、デイハウス(高齢者用常設施設)「ウリマダン」を開設した。これを皮切りに、同胞1世らが、気軽に訪ねて来られる施設作りが各地で進められている。 民族性を継承していく問題は、総聯がこれまで運動の課題として掲げてきた重要な柱のひとつだ。 同胞社会で1世の占める割合が年々減少し、帰化や国際結婚が増えるなかで、とくに民族結婚のための出会いの場、機会を提供することが緊要だったが、94年に同胞結婚相談所を開設。 同相談所は、東京都文京区にある中央センターを中心に、7つの地方センター(関東、近畿、東北、中部、北陸、中四国、九州)と37の各都道府県に相談所が設けられている。 しかし、「息子に地元で家業を継がせたい。でも、都会に出なければ同じ同胞とめぐり会えない」と嘆く地方在住の同胞の声が多く寄せられるという。ましてや都会に住んでいても同胞よりも圧倒的に日本人とめぐり合うケースの方が多い。 こうした要望に応えて相談所では、チョンシル・ホンシル(青糸赤糸)というシステムを設け、都会はもちろん、どんなに遠くても、気軽にリーズナブルに、相手の顔を見ながら話すことができるテレビ電話を全国12ヵ所に設置し、オンラインネットワークで結んだ。 結婚という問題を通して、同胞を、1つにつなげていくステム構築の大きな柱として同胞たちの期待は大きい。 より良い就職情報とあっ旋 かつて日本社会で、同胞のつける職業は限られ、夢を持って社会に出ても自分の力ではどうすることもできない現実にしん吟することが少なくなかった。 同胞たちにとって、未だに国籍差別の壁は厚いが、長いたたかいの末、日本社会の状況も少しずつ変化しつつある。 総聯は、長年の構想の末、今年6月、少しでもより良い情報提供をと「トンポ(同胞)就職情報センター」を発足させた。 同時にホームページも開設し、地方に在住する同胞の就職に関する悩みにも対応できるようネットワークを広げている。 さらに、専門就職情報紙「イルト(職場)―21」を10月から発刊し、商工会や青年商工会と連携を持ちながら同胞企業への人材斡旋(あっせん)にも一役買っている。 センターでは、日本企業に対し、同胞学生の就職の門戸を広げるよう働きかけることも重要な課題としている。 その一方で、朝鮮大学校は、法律、情報処理の専門家を育成する学科を新設し、今後は同胞企業はもちろん、日本企業への進出を積極的に後押ししていく方針だ。 センターは今後、就職問題に総合的に対応できるよう、法人化も目指している。(金美嶺記者) |