春・夏・秋・冬

 「もう道が開けたのだから…。いつになったら行けるんだろうか」――。A氏がポツリとつぶやいた。総聯同胞故郷訪問団事業が決まってからというものA氏は、故郷の夢を毎日のように見るようになった。親兄弟のことを1日も忘れたことがない、だから、総聯同胞故郷訪問団の順番待ちが、たまらなく長く感じられるのだという

▼ある在日同胞が、南朝鮮で現地の人間と共同事業を行っていた。ところが、本人が日本にいる間に共同経営者が、その会社を乗っ取ってしまった。彼は即座に共同経営者を訴えようとしたが、会社に顔を出した途端、逆に背任罪で逮捕されてしまった。地元の役人、警察は、共同経営者の味方で、その同胞は結局、懲役刑を宣告された

▼もう1人の在日同胞は、ソウルでの事業を清算し、不動産を処分したお金を持って飛行機に乗ろうとしたが、外為法違反で逮捕されてしまった。最終的に彼は、資金を回収することができなかった。いずれも6〜7年前のことだ

▼「まさか」「それは特異なケースだ」と言われるかもしれない。でも、事実だ。そして、その社会状況は、現在もまったく変わっていない。南朝鮮では、いまなお「国家保安法」が存在し、「スパイ申告」が奨励されている。その気になれば、いくらでも悪用することができる。不慮の事故に遭遇しないという保証もない

▼「いや、あまりにも故郷に行きたくて、つい」「そうさなぁ。50年間も我慢してきたんだから、1ヵ月や2ヵ月くらい……」A氏が真顔で語る。その目は、遠くを見つめていた。(元)

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