「在日コリアンの現状と未来」
国際高麗学会シンポ・大阪
国際高麗学会日本支部第5回学術大会がサI日、大阪教育大学天王寺キャンパスで開かれ、「在日コリアンの現状と未来」と題するシンポジウムが行われた。韓東成・朝鮮大学校助教授と朴一・大阪市立大学教授がそれぞれ報告し、会場からの発言も交えて、21世紀を展望した在日同胞の生き方、北南共同宣言に象徴されるダイナミックな環境の変化について論じ合った。(張慧純記者) アイデンティティの育成 1945年8月の祖国の解放から55年。在日同胞社会では、年間1万人を前後する日本国籍取得者や国際結婚の増加に象徴されるように、アイデンティティ、民族意識の育成が焦眉の課題となっている。 韓東成助教授は、民族意識の希薄化など現状を追認するだけでは問題は解決しないと述べ、過去の清算による民族教育の制度的保障など、根本問題の解決を展望しながら、変化した現実への積極的アプローチが必要だと主張した。 現実への対応策については、「朝鮮・韓国」籍の同胞のみならず、日本国籍を取得した同胞も視野に入れた同胞コミュニティーの形成が急務であり、今後は@民族史の転換に主体的に関与し、同胞社会の政治分断状況を乗り越える和合の達成A生活・権利の擁護と民族性の育成B経済、文化、社会などの分野で大きな利益を生む新しいネットワークの構築――などを提言した。 朴一教授は、伊丹市が98年に実施した「外国人市民アンケート調査」の結果を紹介。世代が若くなるにつれて、母国語や国籍、民族名について肯定的に受け止める傾向が見られるとの分析を示した。 そして、国際結婚した夫婦のなかで子どもにダブルネームをつけ、朝・日両方の文化を伝えている現象などを取り上げ、「母国語、歴史認識、名前…何らかのエスニックシンボルにこだわりを持ちながら生きている人が少なくない。『祖国志向』か『帰化志向』か、『民族志向』か『同化志向』か、という選択のなかで浮かび上がるほど新しい世代の生き方は単純ではない。在日コリアンをこれらの間の揺れ動く可変的な存在として見ることが大事だ」と述べた。 シンポで強調されたのは、在日コリアンの現状を考えるうえで、現状を把握するデータが不足している点だった。若い世代のなかで「帰化」「同化」傾向が促進している言説があるが、何がどう変化したのか。「今後を展望するうえでも、理論と実証研究を統一していく必要がある」(韓助教授)。 民族的アイデンティティを育成する環境を整備するうえで、ホスト社会日本のあり方は避けては通れない。この点については、「就職差別などの解決のため、人権と権利の保障を条例などで制度化するべきだ」(朴教授)、「国家権力を握っている日本と構造的に劣勢に立たされた朝鮮民族との関係をしっかり見る必要がある」(韓助教授)との指摘がなされた。
6・15宣言の効果 シンポでは、北南首脳会談に象徴される朝鮮半島での和解と融和の動きが、今後の在日朝鮮人の生き方に新しい活動舞台と幅を与えるとの指摘がなされた。 朴教授は、「南北首脳会談以降、朝米関係が改善され、東アジアにおける朝鮮の地位が向上するなど、朝鮮半島で大きな地殻変動が起きている。朝鮮民族が自らの力で和解と安定を実現したことにより、朝・日国交正常化交渉も現実的な日本の外交課題として浮上した」と民族の自主的な努力を評価。朝鮮半島における安定、和解の動きが、外国人に対して硬直的な日本社会を変えるエネルギーになると述べた。 北南が「統一朝鮮をめざす」ことを合意した共同宣言の発表により、統一への距離は縮まった。韓助教授は今後、在日コリアンが祖国を自由に往来しながら、様々な分野で事業を展開したり、北南和解の橋渡しや海外同胞とのネットワークを構築する機会も増えるだろうと発言した。 朝鮮の外交努力により、今春8年ぶりに朝・日国交正常化交渉が再開されたが、会談に寄せる同胞社会の期待は厚い。それは、過去の植民地支配に対する謝罪と補償をはじめ、民族教育の権利保障、無年金高齢者・障害者問題など、今に続く差別の根本的な解消がこの交渉に託されているからだ。 「もし、日本政府が在日同胞の民族教育の権利をもっと早く保障していたなら、同胞の民族意識がこんにちのようになっていただろうか」。韓助教授は、問題の根本的な解決のためにも、今の状況をもたらした根本問題である日本の植民地支配の清算が優先され、民族性を保障する環境が整えられるべきだと主張した。 環境変化に応じて、北南朝鮮はもちろん東アジアにも積極的にコミットしていこうとの発言も相次ぎ、「朝鮮民族が歩んできたのは受難の歴史。私たちはその痛みを知るからこそ、21世紀に、人類の様々な痛みを取り除く作業に加わることができるのではないか」という意見も出された。 |