大阪・生野、神奈川・川崎のコリアタウン
「民族の食文化、私たちが守る」
スーパー展開、浅漬けキムチ…朝鮮食材の「大衆化」
地域密着、家庭の味に活路
キムチ、チャンジャ、コチュジャン…。在日同胞の食卓に欠かせない朝鮮の味。今や日本社会にも根づいている。その一方で、熟成されていない「浅漬けキムチ」をめぐって日本と南朝鮮の間で「真贋(しんがん)」論争が展開されるなど、本来の味には程遠い食品がスーパーにはん濫するようになった。こうした朝鮮食材の「大衆化」に危機感を募らせる同胞業者は、民族固有の伝統的食文化を守ろうと必死だ。日本有数の「コリアタウン」、大阪市生野区の御幸通商店街と、神奈川県川崎市の桜本商店街に、同胞の店を訪ねた。
ブーム、でも厳しい 朝鮮語と日本語の入り交じった会話が飛び交う生野の御幸通商店街。全長1キロにも満たない、この通りに120余店舗がひしめく。 「売り上げは創業時の半分。バブルの頃に比べても3割は落ちたね」。アボジの代から50年、朝鮮乾物店を営む老舗「宮本商店」の店主、李河成さんは首をひねる。 「同胞の街と言われるけど、最近は日本人の客のほうが多いんだよ」。キムチを置くスーパーにどう立ち向かうか。李さんは、日本人の舌に合うよう辛味を抑えめにすることで、同胞だけでなく日本人へのアピールも心掛けてきた。ところが、「キムチがキロ800円、チャンジャが3000円じゃ、もうけは出ませんよ」と、李さんは苦笑する。 「タラ(チャンジャの原料)の収穫量が減っているが、チャンジャの値段を上げると客が離れる。でも、少しは値段を上げたほうがいいのかなあ…」 朝鮮餅(トッ)や豚肉を扱って40年の「岩村食品」でも、最盛期に比べて35%、餅の売り上げが落ちた。「同胞社会も世代交代が進み、祭祀(チェサ)など冠婚葬祭が簡略化し、伝統文化が薄れている。昔ながらの朝鮮食材を売る側には厳しいです」と、店主の洪性敏さんは言う。 多くの人に話を聞いて感じたのは、生野という地域と住民への愛着である。「景気は悪いが、地元の人にはできる限り良い味を安く」「地域に喜ばれるサービスを心掛けたい」…。わが街こそが朝鮮食文化の発信地、という誇りにみなぎっているように思えた。 「温かみ伝えたい」 キムチは、他店が100グラム当たり150円程度で出すところを、破格の100円で提供する。「家族経営で人件費がゼロだし、手作りだから採算は合うんですよ」(店主の崔明善さん)。 朝鮮食材の調理法に詳しくない日本人客に、レシピを丁寧に教える「最近では、お客さんから調理法を聞かれます」(崔さん)。同胞客が少ないのは、朝鮮食材を総合的に置く乾物店に足を運ぶからだ。 創業30年の桜本「カネダ食品」常務、金サンテさんは、「見た目、衛生面、販促、すべてにおいて客のニーズを考えることが大事だ。昔ながらの、一山なんぼの『叩き売り』では売れないのが現状」と語る。 「なぜ、不景気のなか、商売を続けていけるのですか」と聞くと、金さんは「朝鮮の食材を扱う誇り、朝鮮の食文化を広める喜び。それに尽きます」と答えた。スーパーでは手に入らない食材の「温かみ」は、同胞の店ならではの付加価値だというのだ。 同胞にも日本人にも信頼される味。一過性のブームにとどまらない、民族の食文化に貢献したいという理念。同胞店主の元気の秘訣は、こうしたところにあるようだ。(柳成根記者) |