ハンデ持つ級友 支え続ける友情

東京朝高3年2組
運動会のヒーローはホンギ


 10月8日。東京・北区十条の東京朝高グラウンドで運動会が開かれた。その中に文字を書くことや運動機能の一部が不自由というチョン・ホンギ君(18)のひたむきな姿があった。マスゲームも100メートル走も障害物リレーも、級友たちの誘導や手助けを受けて、最後までやり遂げた。そのがんばりを見守ったアボジ、オモニとハルモニ、そして担任の白明姫先生(37)たち。「よくやったね」。みんな涙が止まらなかった。(朴日粉記者)

「息子に優しさくれた朝鮮学校」

 ホンギ君は東京朝高3年2組の人気者。ナイーブで、正義感にあふれ、友達の悪口を言わない、ひょうきん者。

 「ホンギは本当にすごい子。人よりハンデを背負っているが、何でも全力で取り組んで、自分の力をぶつけてくる」と東京第1初級から12年間を共に過ごす級友の姜静香さん(18)。彼女には心配ごとがあった。初中級学校を終えて、朝高に進学した3年前のこと。「もし、ホンギのことを他の学校から来た人たちが分かってくれずいじめられたらどうしよう」と…。「でも、全く杞憂に終わりました。真面目なところや正直なところがみんなに好かれていて、嬉しい」。

 運動会の練習でも人一倍努力した。朝はまだ学校の門が開かない内に登校し、放課後は誰よりも遅くまでマスゲームの基本動作を繰り返し練習した。しかし、障害物競争の出場は、白先生にも秘密にされた。「こんなに頑張ったということをみんなに見せて、びっくりさせようと思いました」と語るのは、親友尹広成君(18)。彼には好きな子も失恋の話も全部打ち明けている。「ホンギは一緒にいて楽しい。何か放っとけなくて…」と広成君。

 そして当日。ホンギ君の100メートル走はビリ。50メートル走のタイムは8・8秒だから仕方ない。

 いよいよプログラムの終盤。障害物競争のトリを飾ったのはホンギ君の組だった。同じクラスの男子生徒6人と体育科の屈強な級友が伴走した。高い所を乗り越える時はみんなで下から押し上げた。ゴムの輪をくぐり抜ける時はからみつかないように支えた。観衆の声援が後押しする。「ホンギ、頑張れ、頑張れ」の声がグラウンドいっぱいに響いた。1番でテープを切ったのはホンギ君。肩を抱き合って涙を流す女子生徒たち。ハルモニもオモニも白先生も手を取り合って泣いた。

 「絶対に1番にしてやりたかったんです」と広成君がぼそっと話した。口数は決して多くないが、優しさが顔に溢れている。そんな素晴らしい仲間に囲まれて、運動会のヒーローになったホンギ。この日のクライマックスだった。

 白先生によれば、決して特別扱いしているのではない。「祖国への修学旅行、長野での進路講習合宿、遠足…。クラスではホンギの手助けをするのはごく日常の当り前の自然なこと」。白先生はこの1年、オモニと連絡帳をやり取りしながら、その成長を見守ってきた。

 春の祖国への修学旅行ではこんなエピソードも。白頭山に行く直前、ホンギ君はお腹をこわして、平壌のホテルで待つことに。看護婦さんもついているし、心配はない。しかし、広成君は残った。「馴染みのない人にはうちとけにくいホンギが心配だったんです」。みんなと白頭山に行きたかったが、そう決めた。

 祖国の懐に抱かれた青春の日々。そんなある日、クラス全員の討論会が開かれた。突然、ホンギ君が1人前に進み出て、こう言った。「3年2組はダメだよ。みんな時間は守らないし、人が見ていないところで日本語をつかっているじゃないか」。一瞬シーンとなった。祖国にいる楽しさでつい浮かれていた仲間の生活態度を鋭く指摘したのだ。「みんなが胸に手を当てて反省しました」と広成君。「ピュアな心で友を思うストレートな気持ちが、仲間たちの心を揺さぶったのです」と白先生。「ホンギはみんなの心を結ぶ絆のような存在です」と語る。

 時が流れ、まもなく巣立ちの時が来る。「夢はパイロット、でも英会話は嫌いだし…」とホンギ君は屈託なく話す。「彼がいたから朝高生活がもっと輝いたと思います。友達を大切にする心や生きる貴さを教えてくれました」と語る広成君の言葉が印象的だった。

 アボジ鄭秀衍さん、オモニ安静美さんの話。「運動会では級友や先生たちの深い愛情に包まれてこんなに素晴らしい感動を味わうことができました。文字が十分には書けない息子のためにクラスの子たちが書いてくれたり、顔色一つでホンギの体調を心配してくれます。こんなに優しい子供たちがいたからこそ、ホンギも頑張れたと思います。教育とはテストの点数がよくなることだけではなく、人のやさしさ、愛情を育てることが最も大切なことだと思います。そんな朝鮮学校と子供たちに心から感謝しています」

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