女性とシドニー五輪@
「統一旗」振る応援団
鳴りやまぬ「ケ・スニ」コール
「われらの願い」大合唱 20世紀最後のオリンピックがオーストラリアの首都、シドニーで幕を閉じた。今回のオリンピックは、史上最多の女性選手が参加したことに象徴されるように女性の活躍が目立った大会だったといえよう。 豪快な技 共和国も下馬評通り女性陣が奮起した大会となった。銀メダルに輝いたウェイトリフティングのリ・ソンヒ、レース中に転倒し、足に傷を負いながらも八位に入賞したマラソンのハム・ポンシル、なかでも柔道のケ・スニは、人気もさることながら、相手を豪快に投げ飛ばすダイナミックな技は、見るものに爽快感を与えずにはおかなかった。 残念ながら結果は、彼女にとっては、不本意な銅メダルに終わった。だが会場の400人余りの南、日本、地元シドニーのコリアンたちからなる応援団に、大きな感動を与えた。 4年前のアトランタ五輪で、ケは彗星のように現れて女子48キロ級決勝で世界最強の「やわらちゃん」、田村亮子を倒し、金メダルを獲得。しかし、今回は勝手が違った。前回の快挙で一躍有名になり、各国のマークは当然厳しくなった。シドニーに着いてから落ち着く暇もなかった。連日の取材攻勢。金メダルのプレッシャーが、ケに重くのしかかった。彼女の試合の前日、48キロ級に出場した同僚チャ・ヒョニャンが疑惑の判定により銅メダルを逃したのも微妙に影響したはずだ。 16歳で世界の頂点に立った彼女は、民族の和解と統一を願うすべての朝鮮民族の期待を背負って試合に臨んだ。 磐石でパワフルな柔道で勝ち進み、万全な調子で挑んだはずの準決勝。ケにそれまでの切れがなかった。試合は1―2の判定で惜敗した。気を取り直して臨んだ3位決定戦。あわせ技一本で勝利した彼女の目から涙があふれ出た。うれし涙というより、その熱い応援に金メダルで応えられなかったという歯がゆさが複雑な涙になって現れたような気がする。 オリンピック2連覇の夢はついえたが、ケ・スニの表情に笑顔が戻った。会場からは「われらの願いは統一」の合唱が自然に沸き起こり、「ケ・スニ」コールが鳴り響いた。「よくやった」の温かい声もあちこちから飛んだ。会場を後にするときケが応援団に深々と一礼して、両手を振ると応援団は総立ちとなってケの銅メダル獲得を祝福した。その光景に胸を熱くしたのは記者だけではなかった。 急速に進む南北の和解と交流。せきを切った流れのようにこの「民族は1つ」の思いは誰にも止められない。その願いを一身に受けとめ力強く闘ったケ。 そしてその活躍は、ここ数年間に及ぶ自然災害によって苦難の行軍をよぎなくされていた共和国の人々に喜びと希望を与えるものとなった。オリンピック前、平壌で彼女に会ったとき、「柔道選手として育ててくれた国と、応援し続けてくれた人民たちに報いたい」と力強く語った彼女の言葉から容易に想像できた。 試合でみせた彼女の力強いパフォーマンスには、自分のためだけでなく、人々の喜びや幸せを力に変えて頑張ったケの純粋な心が投影されているような気がした。 「金メダルをとれず、応援にきた人たちに申し訳ない。でも落胆せずこれから金メダルに向かって、新たな1歩を踏み出したい」とキッパリ語ってくれた。 まだ20歳。その言葉が何とも頼もしかった。(千貴裕記者) |