書評

「朝鮮半島の新ミレニアム」
―分断時代の神話を超えて―

李泳禧 著


南北関係の正しい認識の必要性を説いた
目からウロコが落ちる1冊

 本書を手にした瞬間、亡くなったアボジの顔が浮かんだ。大学1年のとき、大阪の実家で夏休みを過ごしていた筆者に、アボジが著者の「偶像と理性」(ハンギル社、1977年)を薦めてくれたのだ。

 その頃、アボジは「韓国現代史」の中でタブー視され続け、それまで誰も触れようとしなかった済州島「4・3事件」(1948年)について執筆している最中だった。朴正煕軍事独裁下の当時、事件の全ぼうを明らかにすることによって、済州島に住む肉親まで危害が及ぶであろうと、深憂していたアボジに書き通す力を与えてくれたのが、まさに同書であった。

 弾圧を覚悟して、反共主義という「偶像」を破壊し、「国家」の正当性を否定・批判する著者と心を同じくしたアボジはこん身の力をふりしぼって原稿を書き上げた。アボジの心をとらえただけでなく、当時、南の学生や民主人士らの「バイブル」でもあった同書は、冷戦・分断体制と、そこから作り出された「偶像」支配を正面から否定・批判してゆくことによって、人の持つ真実の光が必ず見えてくるであろうこと、を教えてくれた。

 本書においても著者は、虚偽と偏見、政治的プロパガンダに満ちた分断時代の「偶像」と「神話」に鋭利に切り込んでいる。この半世紀、南において狂信的な反共主義者らは、「国家」利益という名分のもとで、あらゆる虚偽を事実として宣伝し法として強要し、その世論操作によって民衆の価値観を麻ひさせてきた。

 世界的に「冷戦」の「神話」が崩れつつあるにもかかわらず、唯一、朝鮮半島だけが最後の「冷戦地帯」として残り、その「神話」を超えられずにいる。

 その理由を、著者は虚偽意識を制度化し、政治、経済、社会的既得権を維持し、拡大再生産している守旧勢力にあると指摘する。

 その実例として、昨年6月に起きた西海上での南北間の「武力衝突事件」をあげ、北側が「侵犯」したという「北方限界線」なるものは南北双方で合意されたものでなく、南側が一方的に宣言したものであるということを、1次資料に基づいて暴いた。さらに、米国の軍事覇権主義が朝鮮半島の緊張激化の核心的原因であるとしながら、南において、日本において「北朝鮮悪魔論」の「偶像」と「神話」の破壊が切実であると、訴える。

 「…『偽り』を嫌い、『真実』を求め、『へつらい』を憎み、『直言』を重んじ、『強者』を批判し、『弱者』に附くといった、時流に逆らう頑固者であるともいえる」(解説・徐勝氏)著者の筋の通った指摘には、真実を訴える力強さが満ちあふれている。

 著者は「日本語版への序文」の中で、「2000年6月15日以後の朝鮮民族は、もはやその日以前の朝鮮民族ではない」としたうえで、その後の関係改善の動きについて「実に革命的変化と言わざるをえない」と指摘している。

 南北関係の正しい認識と相互理解の必要性を説いた、目からウロコが落ちる一冊として、多くの同胞に本書の一読を薦めたい。【311頁、発行所=社会評論社、рO3・3814・3861、定価=2000円+税】(舜)

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