歴史的な視点で朝鮮半島の「今」を読み解く
「歴史とは現在と過去との対話である」(E・H・カー)。6月の歴史的な南北首脳会談後、複雑な諸要素がからみあって動いている朝鮮半島の 今 を主体的に見据えるためには、解放以後の南北関係とそれを取り巻く国際関係の歴史を知ることが重要だ。そこでこれまで刊行された 骨太な 歴史書をいくつか紹介する。
☆「米ソの朝鮮占領政策と南北分断体制の形成過程」(李圭泰著) 民族統一に対する関心は、同時に「民族分断の問題」に対する関心に必然的に転化する。 なぜならば、分断の理由と原因を正確に把握してはじめて、統一に関する基本的な方向性を獲得することができるし、それによって分断の矛盾を克服した統一社会のビジョンをもつことができるからである。 膨大な史料・資料などを用いて、先行研究を検証(中でもブルース・カミングスの著作の問題点を指摘した部分は圧巻)した本書を読むと、なぜ、今まで我々民族は分断のイデオロギーから自由になれなかったのか、その原因を立体的に知ることができる。 骨が折れる本だが、ぜひ一読を。(12000円+税、信山社) ☆「東アジア冷戦と韓米日関係」(李鍾元著) 南北首脳会談の前後、日本の論壇時評は著者の小論(「世界」7月号、「論座」8月号)に注目した。南北接近を予想してきた東アジア冷戦史研究者が、歴史の流れをふまえてダイナミックに展望したからだろう。 本書においても著者は、明せきで細密かつダイナミックな論理構成で、それまで研究上、「空白」をなしていた1950年代の韓国の対外関係(とくに韓米日関係)を米国の対アジア地域統合構想と関連させながら、@米国の対韓政策の諸争点への影響、A韓日会談に対する米国の政策と関与、B韓国国内の政治権力構造への影響などを包括的に検討・分析している。 本書をとおして、読者は政治学と歴史学との交錯が生み出す学問の奥深い世界へ引きずり込まれるに違いない。(5400円+税、東京大学出版会) ☆「朝鮮史」(武田幸男編) 古代から6月の南北首脳会談までを網羅した最も新しい通史。通史の場合、網羅する範囲があまりにも広いため、古代から現代までの各時代史を叙述する際にどちらかの一方に偏る傾向が多々あるものだが、本書は古代・中世と近・現代とをそれぞれバランスよく編集しているのが特徴。全体像を知るうえで格好の入門書である。 各章ごと、執筆者の確かな史実に基づいて、着実冷静に、かつ個性的な叙述が魅力だ。また、文字も太く、地名・人名・固有名詞などにルビが丁寧に振られていて、読みやすい。(3500円+税、山川出版社) ※ ※ ※ その他、本紙でしばしば紹介した「永生」(朝鮮の長編小説、白峰社)、「2つのコリア」(ドン・オーバードーファー著、共同通信社)、「北朝鮮」(ケネス・キノネス著、中央公論新社)は、朝鮮半島情勢を読み解く上で必読文献である。 |