効率的な読書術を習得するには?
読書の秋。この時期、多くの人が書店や図書館などで手にした何冊かを読みつつ、著者と語り合って自らを高めているに違いない。一方、「知的かつ効率的な読書の技術をどう習得すればいいのか」など、悩んでいる人も少なからずいることだろう。とりわけ、近頃大学生やサラリーマンの悩みに応えるかのように、能力主義の競争社会に勝ち抜くための「勉強法」や「読書法」などについて解説した書物が相次いで刊行されている。これまで刊行された手引書のうちから定評あるものを選び、「本の選び方、読み方」などについて探ってみることにした。 目的を持つことが大事 高齢者の経験から学ぶ/「一日不読書口中生荊棘」 本紙(2日付、1面)に紹介された総聯静岡県中部支部顧問の朴洋采さん(74)は、解放前に日本の小学校しか出ていないにもかかわらず、「同胞のために役立ちたい」という一心から猛勉強し、受験の資格を取得した後、63歳の時に宅地建物取引主任、70歳で社会保険労務士、74歳で行政書士の資格を取得した。 今も、ベストセラーになっている「大人のための勉強法」(PHP新書)の著者・精神科医の和田秀樹氏は、「最近の知能研究は、高齢になっても十分に知的作業や勉強を続ける能力があるのを、明らかにしている」と指摘する。まさに、朴洋采さんはそのことを身をもって示し、勉強をするうえで何を心掛けなければならないかを教えている。朴洋采さんを見習い、目的をもって勉強を続けていくことが大事だろう。 「一日不読書口中生荊棘」(1日に本を読まなければ口の中にとげが生じ、食事が通らないという意味)。安重根(独立運動家、1879〜1910年)が残したこの自筆を心に刻み、ひたすら読み続けていこう。 ※荊棘(けいきょく)=イバラのようにとげが有って、通行を妨げるもの(「新明解国語辞典」三省堂)。 本の選び方、読み方 なんといっても、まとまった知識を得るには書物が一番だ。「ぼくはこんな本を読んできた」(文春文庫)の著者である評論家の立花隆氏は再三再四、増刷・増版および改訂・新訂しているものを基準にして本を選ぶことを薦める。また、独学の最中、ひとりよがりの解釈を避けるためには、できるだけ多読してみることが大事だとも指摘している。 そして、「『知』のソフトウェア」(講談社現代新書)の中で、よき入門書に値する書物の条件について次のように詳述している。 「第1に、読みやすくわかりやすいこと。第2に、その世界の全体像が的確に伝えられていること。第3に、基礎概念、基礎的方法論などがきちんと整理されて提示されていること。第4に、さらに中級、上級に進むためには、どう学んでいけばよいか、何を読めばよいかが示されていることなどである」 朝日新聞の名コラムニストだった轡田隆史氏は「『考える力』をつける本」(三笠書房)の中で、「本を速く読むには、本をたくさん読んで、読むのに慣れるのが第一だ。活字を読み慣れることこそ速読術の基本」とした後、「リズムを崩す最悪の敵は、読みながらメモをとること。絶対に避けるべし」と強調している。 「『超』勉強法」(講談社文庫)の著者・経済学者の野口悠紀雄氏は、「興味と意欲に引かれて勉強すべきだというのが、『超』勉強法の基本姿勢だ」と述べ、次のように指摘する。 「全部読んだら、主要な結論が何かを考え、それがどのように導き出されたかをチェックしてゆき、このときは、順に読むのではなく、マークしたところを中心に重要な点をピックアップしながら、行きつ戻りつして読む」。 積極的読書の4ヵ条 1940年米国で刊行されて以来、世界各国で翻訳され読み継がれてきた「本を読む本」(M・J・アドラーC・V・ドーレン著、講談社学術文庫)は、積極的読書の核心についてこう書いている。 「読んでいるあいだに質問をすること。その質問には、さらに読書をつづけているあいだに、自分自身で回答するように努力すること」。その質問の条件について「1、全体として何に関する本か。2、何がどのように詳しく述べられているか、3、その本は全体として真実か、あるいはどの部分が真実か。4、それにはどんな意義があるのか」を上げている。 今も、大学生の間で読み継がれている「知的複眼思考法」(苅谷剛彦著、講談社)にも、批判的読書として、本の段落ごとに「ここは鋭い」「納得がいかない」「その意見に反対。自分の考えとは違うな」「例外はないか」などという書き込みを入れて読むことを薦める。 「勉強において、うまれつきの能力は決定的な要素ではない。それよりも、方法と意欲のほうがはるかに重要」(前掲書、野口氏)なので、前向きな姿勢で読み続けることを心掛けよう。(ちなみに、評論家・加藤周一氏の「読書術」〈岩波現代文庫〉が11月に刊行される予定。ぜひ一読を)。 |