日本の戦争犯罪米国で訴訟ラッシュ

世紀こえても許さず

加州の「時効延長法」機に


 日本の植民地時代に強制労働を強いられたとして、日本企業に損害賠償を求める訴訟が米国で相次いでおり、その数は30件を越えたといわれる。21世紀を目前にして、米国で日本の戦争犯罪を追及する声が吹き出したのはなぜか。その背景を探る。

訴え期限の延長

 訴訟のきっかけとなったのは、昨年7月のカリフォルニア州法改正だった。

 改正された州法は、ナチ政権下で強制労働を強いられた被害者の救済を目的にしたものだが、その対象は日本企業にもおよぶ。改正州法には、1929年から45年の間に「ナチ・ドイツとその同盟国、さらにその占領地域で事業を行った企業によって強制労働させられた人々が損害賠償を請求できる期限を2010年12月末まで延長する」と明記されている。

 カリフォルニア州と同様の法案はロードアイランド州議会でも可決され(4月)、ほかの6州で同様の法案が検討されている(「ニューズウィーク」5月24日号)。

 現在、カリフォルニア州を中心に訴訟が起こされているが、訴えられている日本企業は、三井物産、三菱商事、新日鉄、川崎重工などとその系列会社、米国の現地法人などだ。原告は元米国人捕虜にとどまらず、在米の朝鮮人、中国人さらに本国の朝鮮、中国人にも広まりつつある。

 9月18日には、南朝鮮、中国をはじめとするアジアの元「従軍慰安婦」被害者が、人道に対する罪の違反などを根拠に、日本政府に損害賠償を求める裁判をワシントン連邦地裁に起こした。非難の矛先は企業に止まらず、日本政府にまで広がっている。

謝罪要求決議も

 カリフォルニア州議会は、昨年8月に「第2次大戦中に日本軍により犯された戦争犯罪」に関する合同決議も採択し、日本政府に「明確であいまいでない謝罪」を公式に行うこと、被害者に対して「ただちに賠償を行う」ことを求めた。

 「謝罪」決議案を作成、提出したのは、日系人のマイク・ホンダ下院議員。昨年12月、国際シンポジウムに参加するため日本を訪れたホンダ氏は、「カリフォルニア州でアジア人コミュニティーが拡大する中で、その横のつながりを阻んでいるものが、過去の戦争の記憶、被害者の心の傷だった。被害者の傷を癒すためには謝罪と補償が必要だった」と法案を提出した背景を説明。被害者が生きている間に、彼らの人間性を回復することを求めた。

真相究明の動き

 訴訟ラッシュの背景には、ドイツでの強制労働をめぐる一連の動きもあった。ドイツ政府と企業は、7月にそれぞれ50億マルク(総額100億マルク、約5200億円)を拠出し、ナチ時代にドイツ企業で強制労働させられた外国人被害者に補償金を支給する財団「記憶・責任・未来」を立ち上げた。この引き金になったのが、米国でのドイツ企業を相手取った訴訟だ。

 ドイツは戦後、ナチス迫害の被害者に補償を行ってきたが、強制労働は「通常の戦争行為」として補償の対象外としてきた。しかし、訴訟を機に過去に向きあうことを決心、政府と企業が基金を拠出することでドイツ企業が「強制労働を強い、人間性の破壊をもたらす重大な不法を犯したことを認め」(財団設置法の前文)た。

 同時に、米国では日本軍の戦争犯罪を究明する動きも広がっている。連邦上院議会には昨年11月、民主党のファインスタイン上院議員による「日本軍資料公開法案」が提出された。同法案は米国が保有する「日本軍資料」の一般公開を求めたものだ。法案は、今月2日に上院で可決、数週間以内に下院でも可決される見通しだ。

 米国ではここ数年間、ナチ資料の公開に力を注いでおり、「日本軍資料公開法案」が九八年に成立した「ナチ戦争犯罪資料公開法」とほとんど同文であることから、ナチスに対するのと同様の犯罪追及が行われると思われる。

 日本政府と企業は、相次ぐ訴訟に対して「サンフランシスコ講和条約で解決済み」とはねのけているが、日本が心からの謝罪を行わない限り、責任追及の動きは納まらないだろう。(張慧純記者)

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「戦争責任論」などの著書がある荒井信一・駿河台大学教授の話

 訴訟ラッシュの背景には、日本の裁判所の限界がある。現在、日本国内では植民地支配の清算を求める裁判が起こされているが、勝訴の見込みはない。高齢の被害者は、米国の法廷で日本の戦争犯罪を追及することにしたのだ。

 カリフォルニア州では、アジア系の米国人が増えており、彼らには日本の植民地支配と占領の共通体験がある。彼らのなかで、日本の過去は清算されていないことが、訴えの時効を延長する法制定へ繋がった。

 ドイツも当初は条約で解決済みとの姿勢を取っていたが、基金を発足させ、個人補償に踏み切った。

 日本政府は、日・朝国交正常化交渉で過去を清算すると言っているが、どのように過去を清算するのか、勇気を持って明確な解決を打ち出すべきだ。「日韓条約」の枠で問題を処理しようと考えてはならない。

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