私の会った人

網野善彦さん


 著書「日本社会の歴史」(岩波新書=上・中・下)は、発売以来三巻ともベストセラー入りするほど売れ行きは好調だ。ここではこれまで常識として考えられていた、いわば「はじめに日本人ありき」ともいうべき思い込みが、現代日本人の歴史像を非常にあいまいなものにしているとして、これまでの誤った固定観念を打ち砕いた。

 明治政府は、日本の海外進出にあたって、さかんに、日本は「孤立した島国」という虚像を浸透させていく。そのレトリックを鮮やかに解いた。

 現在、自由主義史観と称するゆがんだ歴史認識の潮流が現れているが、かつてもあった「神話」を事実とする荒唐無稽ともいうべき認識、さらに日本列島とその社会に対する誤った理解が「侵略戦争を引き起こしたという重い事実を知るべきであろう」と強調する。

 日本の中で歴史教科書中の近現代日本のアジア侵略の歴史叙述を「民族の誇り」を汚す「自虐史観」だと罵倒する国家主義的な日本国内の動きに、網野さんは激しい嫌悪感を抱いている。1928年生まれで、軍隊体験を持つ「戦争世代」の戦争観に根ざす。

 「『従軍慰安婦』が、兵士以下の奴隷的な状態に置かれていたことは疑いない。戦場に『従軍慰安婦』を住ませわて、兵隊が、行列をつくって並ぶなんてことは、世界のどこの国でもやったことはないのではないでしょうか。…だから、今頃、『国民的な誇り』などと言われたりすると、しゃらくさいという感じをもつ」 (粉)

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