中国・遼寧、吉林省を訪ねて

誇り持ちウリマル守る朝鮮族

異国で感じた民族教育のありがたさ

金明善


右から二人目が筆者


学生数の減少、教育不足…在日同様の課題も

 今年の夏、書店で偶然手にした1冊の本が私を中国へと導いた。

  「中国の少数民族教育と言語政策」(岡本雅享著、社会評論社)――表題通り、55の少数民族に対する中国政府の民族語政策や、各民族の教育についての研究書である。

 マイノリティーの言語継承について興味をもっている私は、この本を読んで、中国に約二百万人住んでいるというわが同胞が、どのように民族文化や言葉を維持しているのか実際に確かめてみたくなった。

 そんな時、朝青・北海道本部で朝鮮族が多く住む中国の遼寧省、吉林省行きの旅行を計画しているという噂を聞きつけ、それに飛びついた。同行者は朝青活動家と初級部からの同級生2人の計4人。現地に同胞の知り合いがいるということで、とても心強かった。

約10万人が住む

 8月末、飛行機で約3時間。あっという間に瀋陽に到着した。日本では延辺や延吉ほど知られていないが、瀋陽にも約10万人の朝鮮族が住んでおり、大阪の鶴橋を連想させる「西塔(ソタプ)街」には朝鮮語の看板が立ち並ぶ。

 街には朝鮮が出店している料理店や南の人が経営するカラオケ屋、朝鮮族の経営するデパートなどがあった。買い物も注文も冗談を言い合うのも、もちろん朝鮮語である。

 日本で生まれ育ちながら、朝鮮民族としてのアイデンティティをもち、朝鮮語を理解することによって、彼らの輪に入りえることを実感し、享受してきた民族教育のありがたさを身にしみて感じた。

漢語会話に怒り

 1週間という短い旅の間に、多くの朝鮮族の人と出会った。

 早朝5時に吉林駅で出迎えてくれて、1日中市内を案内してくれたクリスチャンの金長男さん、泊まりがけで長白山(白頭山)まで同行してくれた英淑さん、日本語を専攻しているという師範大学生の海英さんと英蘭さんなど…

 みな驚くほど朝鮮語を流ちょうに話した。車での移動中、運転手と案内人の朝鮮族の人が漢語を話すのを聞くこともなかった。私たちが日本語で会話をしていると、眉間にしわを寄せながら「朝鮮人がなぜ朝鮮語を話さないんだ?」と注意された。また漢語で会話している子供たちに「おまえたちは朝鮮族だろ!」と怒る父親の姿もみた。

1世紀以上、他民族と

 「改革」「開放」による農村から都市への人口流動により、農村地帯に多くあった朝鮮族学校の学生数の減少や教員不足、教材内容など解決しなければいけない問題も多いと聞いた。

 中国政府が、民族平等政策により朝鮮民族の言語と教育を発展させる機会を与えてきたとはいえ、一世紀以上も漢族などの他民族と共生するなかで、自分たちの言葉を守るために費やしてきた努力はどれほどのものか、そしてそこまでして守り通すウリマルとは何なのかを考えさせられた。

 日本とは法的な保護や環境がまったく違うので、一概に比較は出来ないとしても、私たちはもう少し積極的に言葉を守るということに関心を傾けてもよいのではないかと感じた。

 日本では最近、朝鮮語を知らない同胞のために日本語の出版物やビデオなどが多く発行されているが、朝鮮学校の卒業生が社会に出た後も朝鮮語に接し、維持していけるような環境作りが今、同胞社会に必要なのではないか。

 中国で出会った朝鮮族の同胞と私が互いにつながっていると感じたのと同様、全世界に住むコリアンと私たちはつながっているのだ。コリアンであるという共通意識とともに、私たちの言語(ウリマル)によって。(北海道大学大学院国際広報メディア科1年

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