本の紹介
「アメリカ海兵隊」-野中郁次郎 著 


非営利型組織の自己革新とは

 サブタイトルは、「非営利型組織の自己革新」。米海兵隊は独立戦争以来、幾多の戦争で重要な任務を遂行し、米国の軍事覇権を示威するエリート集団へ 
と成長した。本書はその過程について、経営組織論の見地から考察している。

 米海兵隊の創設は1775年。最初の司令官は居酒屋経営者で、主な任務は荒くれ水夫に規律を守らせることだった。それが今では、20万近い兵力を擁する世界で最大規模の陸・海・空統合部隊になっている。

 その背景に、とくに第2次大戦での日本軍に対する戦果の数々があるのは言うまでもない。著者はそれを踏まえたうえで、海兵隊が戦いの中で軍事的成果を得ただけでなく、自らの存在意義をも獲得してきたことに注目している。

 「荒くれ水夫を取り締まる船上警察など、近代海軍にはいらない」「核時代に大がかりな統合作戦部隊が必要か」など、とくに平時において、海兵隊は存在意義を疑問視されることがしばしばあった。

 それを克服できたのは、「過去の試行錯誤から獲得した経験に依拠するだけでなく、経験から飛翔してあるべき世界像や自画像を描き」、「組織の使命を問い直し、それを具現化する…知識を創造して来た」からだと著者は言う。水陸両用作戦、即応部隊などのコンセプトもそこから生まれた。

 時代の大転換期にあって、営利型であれ非営利型であれ、あらゆる組織に陳腐化の可能性が生じている。過去の栄光にすがっても革新は起きない。将来の繁栄をイメージし、具現化する力が問われている。(中公新書・212n・税別680円)

 ◇のなか・いくじろう 1935年生れ。一橋大学教授