インターネット、伸びるか音楽配信
通信インフラ強化で拡大


レンタルなど流通に影響の可能性
当面はCDが主役

 怒とうの勢いで社会を包みこむインターネット。生活やビジネスに革命が起きつつあると言われるが、最近注目されているのが音楽データのネット配信だ。音楽をデジタル化してネット上で販売するというもので、昨年から本格化してきた。CDの販売・レンタルなど既存の流通構造に影響はあるのか――業界の動きを追った。


成長株

 昨年末、音楽配信に対する市場の関心の高さを垣間見せる出来ごとがあった。

 12月22日、東京証券取引所の新興企業向け新市場「マザーズ」に、第1陣の2企業が上場。うち1社が、音楽配信のリキッドオーディオ・ジャパンだ。

 リキッドは98年設立で、99年6月期は3億円の赤字だ。にも関わらず、この日は2銘柄とも買い注文が殺到。初値がつくまで数日を要した。

 背景にはネット企業への投資熱もあるが、音楽配信がビジネスとして期待されているのも確かだ。

 音楽配信自体は、昨年登場したわけではない。音楽データをネットで流しやすくする「音声圧縮技術」は、より以前に開発されていた。

 この技術を使い、著作権を無視して違法にCDをデータ化・配信するサイトが米国を中心にまん延し、問題になったが、音質の良さや実用性の高さも同時に周知された。当初は小さなメーカーが主だった専用再生機器市場にも、大手が続々と参入している。


始動

 やはり昨年末、音楽配信の「始動」を印象づけたのが、ソニーミュージックエンタテインメント(SME)の動きだ。著作権保護システムの実用化を受けて、大手レコード会社として初めて、ラルク・アン・シエルや小室哲哉ら大物日本人アーティストの新譜(350円)を配信し始めたのだ。

 SMEは今後も、同社契約アーティストの新曲を、原則的に発売と同時に配信して行く方針だ。まだ無名アーティストが中心の音楽配信に、華やかさが加わることになった。

 ただし、SMEの取組みが爆発的な人気を博しているかと言うと、そうでもないようだ。同社が音楽配信を開始してから、24時間以内に曲がダウンロードされたのは、約1000件。それも、業界関係者やマスコミの「試し」が多かったらしい。

 実は音楽配信が一般化するには、まだ大事な課題が残されている。現在の通信回線では、1曲ダウンロードするのに20分ほどかかってしまい、使い勝手がいいとは言い難いのだ。

 改善するには、通信インフラの強化や伝送速度の早い次世代携帯電話の登場を待たねばならない。


対抗

 では、音楽配信の本格的な普及はいつ頃になるのか。リキッドとSMEに問いかけたところ、「分からない」との返事だった。

 SME広報室の井出靖課長は、こう語る。

 「当社が現時点でネット配信に踏み切ったのは、レコード会社として音楽流通の主導権を維持したいからです。ベンチャーや新参の企業にネットでスタンダードを握られては、『CDを売る』という従来の形が混乱しかねない。当面は赤字も覚悟の判断です」

 一方リキッドは、「ゆくゆくは本格的な音楽配信を事業のメインに据えるが、通信インフラが整うまでは、コンビニなどに設置された端末で曲を販売して利益を出したい。2001年6月期の黒字転換が目標です」(勘村健治マネージャー)という。

 以上のように、ネット配信が大きくなるまでは幾分間がありそうだ。販売戦略の立て方も、「シングルを配信して気に入ってもらい、CDアルバムを買ってもらう」(井出氏)、「旧譜の掘り起こしなどが低コストでできる」(勘村氏)というもので、決してCDを駆逐するものではない。

 ただ、流通構造には影響もあり得る。日本の音楽業界では近年、CDの生産が頭打ちだ。レコード会社からすれば、シングル販売の伸びを妨げるレンタルは面白くない存在だろう。試聴もできる音楽配信で、対抗措置を講じるかも知れない。

 一部のレンタル大手は対策を考えているフシもあり、取材を打診したところ「微妙な問題なのでコメントは控えたい」との答だった。

 いずれにせよ、ネットユーザーは加速度的に伸びており、技術開発のスピードも早い。「ダウンロード」が音楽を楽しむスタイルとして確立されれば、予想外の大きな変化も起こり得るだろう。                      (金賢記者)