そこが知りたいQ&A/
旧植民地時代の在日同胞軍人問題は「一時金」で解決できるのか
植民地支配の責任欠如/根底に「合法」論、新たな加害行為に
Q 日本政府・自民党が、20日から始まる通常国会で、日本軍の軍人や職員(軍属)としてかりだされた日本にいる旧植民地出身者に対して、「一時金」を給付する特別立法を提出すると報じられています。戦後50年以上たった今、なぜこの問題が浮上したのですか。
A 日本政府が戦後、何の処置も講じなかったからです。
しかし、90年代に入り、旧日本軍の軍属としてかりだされた劉喜亘さんが、国連の人権委員会で被害体験を証言したり(94年)、戦地で負傷した「韓国籍」の同胞が日本国内で裁判を起こしていることで、差別の実態が社会的に認知され、裁判所も国会に解決を促すようになりました。
昨年3月、野中広務官房長官(当時)が衆院内閣委員会で「内閣でも前向きに対処したい」と答弁して、自民党内に調査会が設置され、政府が重い腰を上げることになったのです。
Q なぜ、日本にいる被害者たちは放置され続けてきたのでしょうか。
A 日本が戦後、植民地支配に対する反省はおろか、GHQにより廃止された恩給法を復活させるなど、日本の軍人・軍属を手厚く保護する一方で、植民地被害者たちを徹底的に排除してきたからです。
日本政府は戦没者、戦傷病者、未帰還者、引揚者などの戦争犠牲者に恩給、年金、弔意金などを支給していますが、被爆者関連法以外は、条文や附則で、対象を日本国籍あるいは日本の戸籍を持つ者に限っています。戦前は日本人になることを強要し、戦争に負けると日本人ではないから補償できないと差別したのです。
戦争被害者に対する補償は、本来国家間で解決されるべき問題です。しかし65年、日本と南朝鮮が国交を樹立した「韓日条約」でも問題は、解決されませんでした。
日本政府は同条約で、南朝鮮に1080億円の無償供与することを条件に、「両国の請求権問題は完全かつ最終的に解決した」としています。一方、南朝鮮も、在日朝鮮人軍人・軍属を「協定の範囲外」として補償せず、在日同胞被害者は双方から放置される結果に至ったのです。
Q 日本政府が支給する「一時金」で、問題は解決するのでしょうか。
A 政府は「弔慰金」、「見舞金」の名目で、1人当たり数百万円を支給するとしていますが、これは植民地支配に対する責任を回避したもので、問題の解決にはなりません。
「一時金」の最大の問題点は、朝鮮の植民地統治が「合法」との前提に立っていることです。つまり日本は合法的に朝鮮を植民地支配したので、それによって生じた一切の事件、強制連行や「従軍慰安婦」に対して法的責任は一切負わないと言っているのです。
日本政府は1995年に「従軍慰安婦」被害者に対する民間基金を発足させましたが、被害者たちは、「新たな加害行為」と痛烈に批判しました。それは、国家が行った犯罪の賠償を民間に肩代わりさせたからです。
また現在、旧日本軍軍属として徴用された「韓国籍」の同胞被害者が、「当時は日本人であった」として、日本人と同様の障害年金などを支給することを求める裁判を行っています。しかし、当時は日本人であったから、日本人を対象にした法律に基づいて補償しろという論理は、さらに展開すると、朝鮮民族も日本人と同様「加害民族」だったという主張につながり、問題の根本的な解決にはなりません。
同胞被害者は、自らの意思に反して強制連行された人々です。よって、日本政府は日本人として彼らを補償するのではなく、植民地支配に対する反省の立場を表明し、国家として謝罪し、補償するべきです。
Q 現実的な解決方法はあるのですか。
A 朝・日国交正常化交渉のテーブルで解決されるべきでしょう。すでに、朝鮮政府は在日の軍人・軍属、「従軍慰安婦」、強制連行被害者らの補償問題は解決されていないとして、国交正常化交渉での包括的な解決を提案しています。
仮に日本政府が、国交正常化の前にでも謝罪するのなら、現行の恩給法などで取り込むのではなく、別途、外国人または植民地被害者に対する立法措置を取るべきです。いずれにしろ「一時金」は「慰安婦」問題に対する「民間基金」同様、被害者の尊厳を否定するものであり、新たな加害行為になります。