体力と精神力の限界に挑む
六甲全山縦走−56kmを完走
清々しい満足感、心身共に軽く
若い頃は京都にいた。天気が良ければ山の本を手に愛宕山や比良山系によく登っていた。しかし、この山域だけでは満足出来ず、ある山の会の北アルプス・槍ヶ岳山行の誘いに参加し初めてアルプスを縦走した。この時の感動が私の山への思いをより一層深めた。
結婚し兵庫に移り、子育てに追われた20年間は1度も山に登る機会が無かった。しかし子供たちも大学生、社会人と成長した、ここ数年前から登る機会に恵まれ山行を重ねている。
兵庫では「六甲全山縦走大会」(神戸市主催)という山の祭典が毎年秋にある。六甲山系(兵庫県の瀬戸内側、大阪湾に沿う住宅地の背後、西の塩屋から東の宝塚まで)の背骨にあたる旗振山、栂尾山、高取山、菊水山、鍋蓋山、摩耶山、六甲山、大平山を越え、宝塚の塩尾寺に至る約56キロを1日で走破するコースだ。日本アルプスを2〜3日かけて縦走する距離に匹敵し、アップダウンが激しい苛酷な縦走にもかかわらず全国から2000人以上が参加する。
昨年11月23日、私も平素一緒に山行を重ねている同胞の友人ら5人(男性1人、女性4人)と初めて参加した。
山の自然に触れ、四季折々の美しさに感動を覚え、ストレスを発散し、生活のステータスとなっている登山だが、「六甲全山縦走」に自らの体力と精神力の限界に挑み試してみたかった。
鍛練とコース確認などのため、限られた時間の中で、蒸し暑い日にも時間と体力の配分を計りながら、縦走の全コースを何回かに分けて試行錯誤しながら歩いた時は、虚無感に襲われることもあり、縦走出来るとは想像も出来なかった。
仲間はいても山はどこまでも自らの責任で登るもの。ただひたすらに登り、下り、歩きに歩き、まさに自分との闘いだった。
午前5時20分にスタート、午後7時15分にゴールイン。約14時間かかったがついに完走した。
しかし苦しさはなく、何故か達成した清々しい満足感で身も心も軽かった。縦走した人にしか分からない魅力が山にはあった。
当日は雨が降り、コンディションは最悪。だが逆に気持ちは集中した。人間とは不思議なもので、やろうという強い意志があれば、どんな辛いことも出来るというのが教訓だ。最後は肉体的なものよりも精神力の強さがものをいう。
この恵まれた自然の環境を誇りに思い、これからも同胞とともに登り続けたい。
(沈貞姫、兵庫県尼崎市在住、51歳)