作文コンテスト受賞作品


第19回全国中学生人権作文コンテスト 法務政務次官賞
「命の大切さ」(茨城朝鮮・中級部3年生 李星輝さん

 昨年12月10日、第19回全国中学生人権作文コンテスト(主催=法務省)で3位にあたる法務政務次官賞を授賞した茨城朝鮮初中高級学校の李星輝さん(中3)の作品「命の大切さ」を紹介する。

 「プルル、プルル…」
 この日、20件目の電話であった。オモニは、帰ってきてからずっと電話の応対におわれていた。かかってきた電話は、すべて僕の弟を心配する親戚や知人からの電話であった。

 この日、小学校6年生になる僕の弟が登校中、見ず知らずの若い男にナイフで切りつけられたのである。ワイシャツは切り裂かれ、ランドセルもズタズタにされたばかりでなく、腹部にも軽い傷を負った。

 学校でこのことを聞いた僕は、(冗談だろ?!)と、初めは信じられずにいた。学校中が緊張に包まれたが、なぜか僕だけ狐につままれたような気分だった。

 その日、家に帰った僕はズタズタにされた弟のランドセルを目の当たりにし、初めてこの事実をうけとめることができた。と、同時に弟を傷つけた犯人たちに対する怒りがこみ上げてきた。

 (なぜ、僕の弟を?!)弟を傷つけた男は3人。いつもの道を歩いていた弟に笑いながら、「君、何人?」と、声をかけてきたそうだ。弟がなんのためらいも無しに、「朝鮮人」と答えると、いきなり神社の境内に連れ込み、3人がかりで襲いかかってきたのである。弟はあまりの恐怖で、助けを呼ぶ声さえも出せなかったと言う。

 なのに男達は、笑いながら弟にナイフをふりかざした。僕の小さな弟に…

 家にいた弟は何とか平然を装っていたが、その腹部には、くっきりとナイフの跡が刻まれていた。見えない心の傷は、計り知れない。

 僕はこの事件についてこう思う。今の日本社会は、「命」というものをあまりにも軽んじている。

 毎日テレビや新聞のニュースでひっきりなしに流れる殺人や自殺のニュース。命が消えてなくなるという悲しい現実が、日常茶飯事のように、あまりにも軽く取り沙汰されているのではないか。

 命とは、たった1つしかないかけがえのないものであり、それは自分1人のものではなく多くの人によって支えられているものなのだ。

 そもそも基本的人権を守ると言うことは、こういった命の大切さを1人1人が理解することから始まるのではないかと思う。

 人の痛みを理解できる心を持てば、いじめや民族差別など無くせるのではないだろうか。

 今回、僕の弟のことでたくさんの人々が、親身になって心配し助けてくれた。学校の先生方は、弟が安心して学校に通えるように、毎日送り迎えをしてくれたり、学校周辺を見回りして下さったりした。また、高校の先輩たちも、人気の少ない路地などを自主的にパトロールしてくれたりもした。電話や手紙などでも、たくさんの励ましの言葉をいただいた。

 ある日、学校に1通の手紙が届いた。弟の事件を新聞で知った兵庫県の女性からの手紙であった。

 手紙には、「…あまりにも可哀相で涙が出たよ。日本人のこと嫌いになってもしょうがないけど、おばちゃん、君を応援して居るからね…」と書かれていた。

 また、「…朝鮮人と堂々と答えた君は本当に立派だったね…」とも書かれていた。

 僕は本当に有り難く思った。顔も見たこともないおばちゃんからもらった手紙が、僕の家族にこんなにも力を与えてくれるとは、思ってもいなかった。

 弟が心に受けた傷は、簡単にはなくならない。だけどこういう人達の優しさや励ましによってその傷は次第にいやされていくだろう。

 だけどもう2度とこんな事件を、起こしてはいけない。そのためにも僕は、身を持って命の大切さをみんなに訴えたい。