日本各紙の予測


 年末年始の日本の新聞各紙では、シミュレーションや座談会、アンケートなど、趣向を凝らした経済予測企画が出揃った。景気が緩やかながら回復傾向にあることでは各紙とも概ね一致しており、復調のカギを握る分野では、電子マネーなど決済方法の多様化やインターネットの普及などを背景に、情報技術(IT)関連事業に注目が集まった。

成長率1,4%も米株価暴落に懸念/日経

 日本経済新聞には、自社の総合経済データバンク、NEEDS(ニーズ)の独自調査による、2000年の経済動向のシミュレーション記事が掲載された。

 NEEDSの予測によると、2000年度の日本の実質経済成長率は政府見通しの1,0%を上回る1,4%。アジア経済の景気回復に伴う輸出増加と民需拡大による生産増と増益を踏み台に、これまで手控えられてきた設備投資がIT関連を中心に回復に転じる。設備投資は3年ぶりのプラスに転じる見通しだ。また、これに連動して賃金や雇用も上向き始め、個人消費の増加も見込まれる。

 ただし、景気の波乱要因もいくつか残っている。

 最大のリスク要因は米国株価の暴落だ。これによってドルや日本の株価が急落した場合、成長率は標準予測の1,4%から0,7%に低下。さらに、資金が米国から海外へ大量に流出することでドルが暴落し、1ドル=80円台の円高になると、成長率はマイナス0,2%にまで落ち込み、日本経済は壊滅的な打撃を受ける。回復しつつある景気に水を差すことになりかねない。

 このほか、地方自治体が公共事業を絞り込むことへの懸念など、不安材料は少なくない。


「エコビジネス」急成長に注目/毎日

 毎日新聞は「経済観測」執筆者による座談会の形で、次の1000年を展望する企画記事を掲載し、日本は「経済的には底固めができた」との見解を示した。また、今の日本の景気は経済が急回復しているアジアに支えられており、2000年は「世界同時好況の年」になりそうだと予測している。

 同紙がとくに注目するのは、企業の環境問題への積極的な取り組みを背景にした「エコ・ビジネス」の急成長だ。

 具体例としては、▽環境負荷の低減に努力している企業を選び出して投資対象とする、ニュータイプの株式投資信託「エコファンド」が、個人投資家を中心に人気を博している ▽環境保全対策に投入したコストと、それによる経費削減効果などの収支である「環境会計」を導入したり、国際標準化機構(ISO)が定めた環境管理システム規格「ISO14001」の認証を取る企業が増加している ▽自動車業界でも、燃料電池など環境に配慮した次世代の駆動技術が注目を集めている ▽環境を重視して商品を選択する消費者「グリーン・コンシューマー」が、日本でも裾野を広げつつある――ことなどを挙げ、経営戦略における環境問題の重みが増している点を指摘している。

 

金融生き残りのカギはIT戦略/朝日

 朝日新聞では、今年の日本の為替相場、株価、金利の行方を占う記事の中で、経済が期待通りに自律的な回復軌道に乗るかどうかについては微妙との見解を示した。

 その最大の要因はやはり、米国経済の行方。景気の過熱でインフレが進行し、経常赤字が拡大して円高ドル安が進む懸念を指摘し、日本の景気回復が明確にならないままに、円高ドル安が進むという最悪の事態もあり得ると予測している。

 また、経営統合する第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行が今秋、持ち株会社を設立して、毎年1500億円のIT投資を続けていくことを表明するなど、多くの大手金融機関がIT関連への投資を促進することを挙げ、2000年の金融界の生き残りのカギはIT戦略だと指摘している。

 さらに、2001年3月末に破たん金融機関の預金を全額保護する特例を打ち切る「ペイオフ解禁」について、解禁を1年間、延期することを与党3党が決めたことについては、「国内外に日本の金融システムの弱さを印象づけることになりかねない」と述べ、持ち直しつつある経済への影響を懸念している。


円高維持、失業率も依然高水準/東京

 東京新聞の企画は、民間シンクタンクや商社などの有力エコノミスト7人による、2000年の経済予測。

 日本経済の現状については、7人のうち6人が、「景気は緩やかに回復」と判断。そのうえで景気がこのまま改善を続けた場合、いつ景気が底を打ったかについては、いずれも昨夏までには最悪期を脱したとの見方で一致した。

 具体的な数字を見ると、経済の活発さを測る物差しである国内総生産(GDP)成長率は、最も低いプラス0,5%から、最も高いプラス2,0%までと、見通しが分かれた。

 また、景気の行方を左右する円相場については、平均で1ドル=100〜110円程度の円高水準を見込んでいる。

 一方、雇用不安の高まりで注目を集める完全失業率の予測では、4,3〜5,0%と、依然として高水準にとどまるとの見方が示された。

 さらに、「新年度の日本経済の最大のテーマは、企業がITを活用し雇用を削減できるかどうか」「構造改革を急ぎ、214世紀にふさわしい経済体質に速やかに転換できるか否かがカギ」などの意見が出た。

 

景気緩やかに回復も雇用不安定/読売

 読売新聞は、経営トップ30人へのアンケートに基づいた分析記事を掲載した。

 同紙はこの中で、今回のアンケートは、多くの経営者が国内景気や企業業績について、緩やかな回復基調をたどる道筋を描き、最悪の不況からようやく抜け出した手応えを感じていることを浮き彫りにしたと指摘した。

 アンケート結果によると、今年の景気の展望については、回答者の半数以上が、「低迷状態を脱し、緩やかな回復局面に入りつつある」と答え、政府見通しの経済成長率1,0%水準を達成するとしており、景気認識が大幅に好転している。

 その半面、雇用状況については、依然として不安定との見方が強く、完全失業率に関しては回答したほぼ全員が4,0%以上、3人に1人が5.0%以上を予想するという厳しいものとなった。

 また、3〜5年後に産業界をリードしているであろう産業の予測では、情報通信産業を挙げる企業が圧倒的多数を占め、ここでもIT関連への注目度の高さが目立った。

 情報通信産業の分野以外の企業でも、新規事業の柱として本格的に取り組む姿勢を示しているのが特徴だとしている。