教育シンポ――子どもの権利条約と朝鮮学校・外国人学校
兵庫県外国人学校協議会、京都、大阪の教育会をはじめ内外の多くの団体の共催で開かれた教育シンポジウム「子どもの権利条約とマイノリティ――朝鮮学校・外国人学校の子どもたち」(4日、大阪)。シンポは、子どもの権利条約、国連・子どもの権利委員会の勧告が示した「グローバル・スタンダード」に照らして、朝鮮学校の民族教育が正当であり、それを日本人や他の外国人も支持していること、「グローバル・スタンダード」に比べて日本政府がいかに外国人の子どもたちのアイデンティティを育む教育を軽視、妨げているかを改めて認識し、是正を求めていく運動に弾みをつける場となった。
メッセージ
子どもの利益に沿って解決を
勧告は前進はかる基準
国連子どもの権利委 M・サーデンバーグ副議長
子どもの権利委員会は昨年、日本政府の条約順守状況に対する審査を行い、その結果として総括所見を採択。日本に住む子どもたちが直面している重大な権利侵害と関連し、委員会が特別な関心を持つ分野への特定の勧告を盛り込んだ。
これらの勧告は、次回の審査のベースとなり、日本における子どもの権利の分野の前進を計る基準となる。日本政府代表団は、勧告を実現すると公約した。
委員会は日本に対し、条約第2条(差別の禁止)の原則が、司法と行政など子どもに影響するあらゆるプログラムに適切に反映され、政策決定における基本原則となるべきだと勧告した。とくに朝鮮人、アイヌを含むマイノリティの子どもへの差別的な取り扱いを、それがいつどこで生じようとも全面的に調査し、かつ解消するよう強調した。
さらに何人かの委員は、高等教育機関へのアクセスにおける不平等が朝鮮人の子どもたちに影響を与えていることについて特別の関心を持った。これは条約第2条と第30条(マイノリティの権利)の観点から是正されなくてはならない。
委員会はこれまでも、民族的、言語的マイノリティに彼らの文化的価値とアイデンティティに即した自国の言葉で教育を受ける権利を保障しなければならないと勧告してきた。
文部省は最近、大学入学資格検定を16歳以上なら誰でも受検できるようにし、外国人学校生の負担を軽減させる政策を発表した。小さな前進かもしれないが、条約と委員会の勧告を実施すると公約した日本政府の前向きな姿勢の表れだと思いたい。
日本には正規の学校として認めるための厳格な基準があり、それをそのまま受け入れることのできない外国人学校が処遇面で差別を受ける。日本政府はこれを単なる法制度上の問題とみなすのではなく、子どもの最善の利益をはかるという見地に立って解決すべきだろう。
さらに委員会は、日本政府が人権教育を学校のカリキュラムに制度的に導入するよう促した。朝鮮人の子どもに対する嫌がらせなどの人権侵害を防止するため、効果的な申し立てのメカニズムの設置を含め、積極的な対策が講じられるべきだ。
条約を実施していくうえで、日本政府はNGO(非政府組織)と協力すべきだ。このようなNGOにはもちろん朝鮮人の団体も入る。
また、朝鮮人など当事者の子どもの意見を直接聞くことの重要性も強調しておきたい。
アイデンティティー尊重を
核は言葉、教育が不可欠
民族教育大阪府対策委 蔡成泰事務局長
マイノリティの人権の根っこは、アイデンティティの確立だ。アイデンティティの確立なくして真の幸福はありえない。そして、アイデンティティを確立するためには、子どもの頃からの教育が重要だ。外国人が外国人として、自分らしさを身につけられる教育を受けることのできる社会にならなくてはいけない。
われわれにとって自分らしさの核となるのは言葉だ。日本の学校では自分らしさが否定されてしまう。
在日朝鮮人の民族教育は1945年の解放直後、民族の文字と言葉を教えるための国語講習所から始まった。このことからも分かるように、民族教育で一番大切なのは言語の教育だ。現在も朝鮮学校のカリキュラムでは非常に多くの時間を国語教育に割いている。
現在、朝鮮学校は近畿に約50校。カリキュラム内容は日本の1条校とほぼ同等だ。ただし、授業は朝鮮語であり、朝鮮の言葉と文化に関する教育に力を入れている。日本が真の多文化社会になるためにも、朝鮮学校は認められなくてはならない。在日朝鮮人の民族教育は固有の権利だ。
しかし、朝鮮学校は学校として認められてない。卒業しても学歴にならない。日本政府は子どもたちに、アイデンティティを取るか、学歴を取るかの二者択一を強いている。
大学受験の問題も、来年から大学入学資格検定(大検)受検が可能になりダブルスクールはなくなったが、大検受検と大学受験というダブルテストは残っている。また助成金が少ないため、父母の負担が大きく、教職員の給料も安く、十分な教育環境を整えられない。
文部省の施策における外国人の子どもに関する対応は、日本語教育のみ。日本語のできる外国人に関する者は何もない。外国人としてのアイデンティティを尊重するという認識が決定的に欠けている。
しかし昨年、日弁連をはじめ国連子どもの権利委員会、自由権規約委員会も是正を求める勧告を行った。日本政府は内外から差別解消を迫られている。
私たちは、アイデンティティを育む教育は絶対的な権利だという共通認識を持って運動していかなくてはならない。外国人学校に対する日本政府の制度的差別は、「子どもの権利条約」にもある子どもの発達と成長を妨げる人権侵害だ。
私たちはこうした共通認識を持って今後も政府に働きかける一方、各自治体にも協力を求める必要がある。
自分の心が持てる社会へ
日本の将来にとっても有益
日本弁護士連合会 鈴木孝雄弁護士
第2次世界大戦後、すべての民族は平等だというのが国際的な基準となった。人間は誰かの奴隷にはなりえない。奴隷ではないというのは、自分の心を持つということ。自分の心を持つためには、自分の言葉と文字、自分の文化が必要だ。それはどこに生まれようと普遍的な権利だ。
しかし、弱者である子どもはこうした権利を侵害されやすい。それを保障するための国際的な基準が「子どもの権利条約」だ。
にもかかわらず、日本で、外国人学校の子どもたちは激しい不利益の中で育っている。日本政府はその子どもたちに、無理矢理日本の教育を押しつけようとしてきた。日本政府は戦後五十年間、残酷なことをしてきた。
日本弁護士連合会(日弁連)が昨年2月、日本政府に対し、外国人学校への制度的差別を是正するよう勧告した。勧告およびそのもととなった調査報告書を作成する際、将来、どんな人が読み直しても、恥ずかしくない、精一杯のいいものを作ろうと努力した。
調査報告書では、◇本国とほぼ同一の教科と水準によるもの◇日本の基準とほぼ同等の教科と水準に、自国語を国語とし自国語で他の教科を教え、自国の歴史などを加えたもの◇上記いずれかの最低水準を満たしているもの―という一定の基準を提示し、このどれかにあてはまる外国人学校については日本の一条校と同等の資格と助成を認めるべきだとした。
またマイノリティに対しては、マジョリティ以上のコストがかかるのは当然だから、さらに日本の学校以上のことをやってこそ初めて平等になる。
政府の役人はよく国益という言葉を使うが、外国人学校を平等に扱い、外国人が外国人として生きられる社会を作ることは日本人、日本の将来にとっても利益となる。
それこそが本当の国益と言えるのではないか。
世界的に見て、自国以外で暮らす人は増えている。自国以外のところで生まれ、育つ子供も増えている。
聖ミカエル国際学校の校長先生が同校を「フルーツサラダ」に例えたが、日本社会が、日本人、外国人関係なく、子どもたち1人1人が個性を伸ばして行けるフルーツサラダになればいい。
必要な日本政府の援助
コミュニティの一員として
聖ミカエル国際学校 アイリン・パードン校長
兵庫県外国人学校協議会は、1995年1月の阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた県内の外国人学校が協力し、日本政府に財政的援助を求めていく過程でこの年9月に結成された。現在、4校の外国人学校(法人)と3校のインターナショナルスクールが参加している。
聖ミカエル国際学校は46年3月に創立。イギリスのナショナルカリキュラムに基づいた英語による教育が行われており、3歳から12歳まで、様々な国籍の生徒たち百余人が通っている。私たちはわが校のことを「とてもおいしいフルーツサラダ」に例える。色々な国の子ども1人1人が個性を十分に発揮しているからだが、今の日本の学校は、こんなインターナショナルスクールの代わりにはなれない。朝鮮学校、中華学校、ドイツ学院、ノルウェー学校など、他の学校の代わりにもなれない。
日本にある他のインターナショナルスクール、外国人学校と同様、私たちの学校も財政的な困難に直面している。わが校は、困っている外国人の子どもを助けるために始まったが、学校を運営する資金が不足しておりいつもぎりぎりだ。私たちのようなインターナショナルスクールは普通、企業や団体のサポートを受けていない。学費ですべてを賄わなくてはならない。
昨年、神戸市から110万円(生徒1人あたり1万円)、兵庫県から440万円(同4万円)の助成金が支給された。つまり、昨年は生徒1人あたり合計5万円の補助金が支給された。しかし、97年のデータによると、日本政府は日本の公立学校には、幼稚園児1人あたり年間134万円、同小学生には87万円を使っている。私たちは神戸市と兵庫県からの助成金に感謝しているが、私たちがもらえる助成金はそれだけだ。
インターナショナルスクール、外国人学校に子どもを通わせる父母、教員たちは日本学校に通わせている父母、教員たちと同じように税金を納めており、すべてのインターナショナルスクール、外国人学校は日本政府からの援助を必要としている。私たち外国人もコミュニティーの一員だ。日本政府が考えを改め、外国人学校とインターナショナルスクールに対する理解を深め、援助を実施するよう求めたい。