特集//金正日総書記の5年間の現地指導に見る共和国経済


 共和国では近年、(1)ソ連・東欧社会主義崩壊による貿易市場の70%喪失(2)94〜97年までの自然災害(3)「核疑惑」を口実にした体制抹殺の国際的圧力 などによって、経済はかつてない困難な状況に陥っていたが、今は復興に向けて歩み始めている。それは朝鮮人民が金正日総書記の指導のもと、96年からの「苦難の行軍」を通じて「困難な峠を成功裏に克服」(労働新聞などの98年元旦共同社説)し、今年の共同社説では「第2の千里馬運動を展開していく」ことを強調していることからも分かる。「困難な峠を成功裏に克服」したという意味は、「社会主義をしっかりと固守できる政治思想的基礎と軍事力を整えた」ということで、今後は残る経済部門を整えていくことを示唆した。また「第2の千里馬運動」とは、朝鮮戦争後の廃墟の中から重工業を中心に経済の土台を築いた最初の千里馬運動のように、重工業の土台を再構築して経済を立て直していくことを指す。5年間にわたる総書記の経済部門に対する現地指導などからその主な特徴を地域別に上げて見た。(基)

 

両江道

ジャガイモ実験栽培に成功

 「ジャガイモ栽培に力を集中しよう」――総書記の両江道大紅湍郡現地指導(98年10月1日)を契機に、共和国ではジャガイモ栽培を大々的に推進している。これは共和国が最近、農業政策の中で強調している食糧問題解決のための対策だ。

 具体的には地帯ごとの特性に適した優良品種を開発し、収穫量を高めるというもの。大紅湍郡では昨年、ヨーロッパから導入したヘクタール当たり80トン収穫できる種イモを実験栽培した結果、ヘクタール当たり20トンだった生産高を71トンに伸ばした。

 ジャガイモは元来、冷涼な気候を好み気温15〜21℃程度が生育に適した温度で、高山地帯で栽培されてきた。共和国でも両江道などの北部高山地帯が主な栽培地域だった。しかし気候に合わせた品種改良が世界的に進んだことから、山間(畑)、高原(同)、平地(水田)などの地帯でも簡単に栽培できるようになった。

 共和国では昨年までの2年間、平安北道と咸鏡南道の水田で水稲とジャガイモの2作が実験的に行われ、成功を収めた。今年は平安北道・定州と咸鏡南道・咸興を結ぶ緯度40度以南で実施しているという。実際、4月に訪朝して黄海北道銀波郡の協同農場を視察したアジア農民交流センターの大野和興世話人によると、「稲の前作として40ヘクタールの土地でジャガイモを栽培していた」と言う。

 

慈江道

332ヵ所に中小型発電所を建設

 「苦難の行軍ではなく楽園の行軍を行うようになった」――総書記は98年1月に6日間にわたって、慈江道経済部門に対する現地指導を行った際、こう述べた。慈江道で社会主義経済建設の一大高揚を起こすための土台が整えられたからだ。

 道では地の利を生かし、大小の河川に様々な形態の中小型発電所(1万キロワット以下)を自力で多数建設、地方で要求される電力問題を解決し、経済各部門を発展させられる土台を築いた。

 中小型発電所は、丸太と赤土で堤防を築き、一定の落差を付ければ作れるのでセメントや鋼材を使わずに済む。材料、資金、労力とも節約が可能だ。

 慈江道ではこれまで332ヵ所に中小型発電所を建設し、地方産業工場と揚水場、工作機械工業、住宅照明、暖房用電力を解決した。堤防をせき止め建設した発電所には人工貯水池が生まれ、天然養魚などに利用されている。

 慈江道で発揮された自力更生の精神は、「江界精神」として全国の模範になり、昨年までに中小型発電所は全国に5000個建てられた。

 また総書記が98年1月に続いてこれまで計5回、現地を訪れ、青年電気連合企業所、煕川工作機械総合工場、鴨緑江タイヤ工場、協同農場など経済全般を指導したことは、道内の経済が軌道に乗っていることを示していると言える。

 

平安北道

大規模水力発電所を建設

 今年の共同社説では、引き続き中小型発電所を建設するとともに、大規模水力発電所の操業を早めるよう呼びかけた。そうなれば、工場や連合企業所を正常稼働させることができるからだ。

 大規模発電所は昨年まで、総書記が訪れた安辺青年発電所(旧金剛山発電所、江原道、96年6月、9月)、月飛山発電所(江原道、同年10月)、寧遠発電所(平安南道、同年6月)で建設が進めていたが、今年は総書記が1月18日に泰川水力発電総合企業所(平安北道)を現地指導した以降、10余ヵ所で建設を進めていると報道された。

 泰川水力発電総合企業所は、科学院に続いて今年2番目に伝えられた総書記の経済部門に対する現地指導対象。総書記は、拡張工事を行っている2号発電所を見て回り、発電所建設と電力生産の状況を把握した後、電力生産を優先させるのは人民経済を飛躍的に発展させるうえで最も重要な問題であると述べ、3号発電所は道が担当して建設することなど、国家の電力増産における課題を示した。

 そして2月23日、3号発電所の着工式が行われた。3号発電所は、2号発電所から流れる水を利用(図参照)して、泰川一帯の電力問題を解決するために建設される。完成すれば水上輸送に有利な条件が整うとともに、灌漑用水も確保できる。

 今年4月の最高人民会議第10期第2回会議では、昨年の予算決算をし、今年の予算を編成したが、予算編成ではとくに、電力工業と農業に最大の比重があてられた。電力部門に対する投資は昨年比15%増となっている。

 大規模発電所建設は、来年10月10日の党創建55周年の完成を目標に進められている。

 

平安南道

機械工業の発展へ

 98年、総書記は電力問題を解決した慈江道(1月)、鋼鉄生産を高い水準で正常化するための協議を行った咸鏡北道の城津製鋼連合企業所に続いて、6月には国の機械工業の拠点である平安南道の1月18日機械総合工場、清川江機械工場、同年12月には同道の勝利自動車総合工場と徳性機械工場を現地指導した。機械工業は、工場や企業所の復旧、拡張に必要な各種の機械部品、設備、それに新しい機械類を少なからず生産することができる重要な部門だ。鉱業部門に必要なウインチ、削岩機、農業部門に必要な農業機械類やモーター、ポンプ、建設部門に緊要なクレーンや各種の建設機械類などを生産することができる。

 機械工業は一言でいって、農業、軽工業、重工業の発展と、基本建設の向上、交通運輸の発展など、経済建設で重要な位置を占めている。1月18日機械総合工場はこの30年間、人民経済各部門で必要な機械製品を生産し、国の工業の土台蓄積に貢献。総書記は引き続き自力更生で製品を生産するよう強調した。また清川江機械工場でも、米国を中心とする帝国主義の経済封鎖に屈することなく生産に取り組んでいる。

 一方、勝利自動車総合工場を訪れた総書記は、国の自動車工業を発展させる課題と方途を示しながら、増える運送量の需要を円満に解決するうえで、同工場が占める位置が大変重要であると述べ、20年前に1万台の自動車を生産したように奮闘するよう呼びかけた。労働新聞2月5日付によると、同工場では設計事務所の技術者がすでに120余件の設計を完成させ、高性能の自動車を生産できる準備を整えた。電力、金属、機械工業部門で成果を上げているからこそ、自動車の生産にも力を注げられるのだ。

 

咸鏡南・北道

鋼鉄材増産に全力

 共和国では昨年から「経済建設の基本路線」を確固と堅持することが強調されてきた。経済建設の基本路線とは、重工業の優先的発展を保障しながら、軽工業と農業を同時に発展させることだ。

 重工業を発展させるには、電力問題を解決すると同時に鋼鉄部門を発展させなければならない。

 総書記は昨年3月、咸鏡南道の城津製鋼連合企業所に続いて、今年3月には咸鏡南・北道の工業部門に対する現地指導を行った。

 昨年、城津を訪れた総書記は、鋼鉄生産を高い水準で正常化するための協議を行い、経済建設で重要な意義を持つ鋼鉄部門を優先させなければならないとしながら、厳しい時に鋼鉄で国を支えてきた同企業所の労働者たちが、再び千里馬に乗った勢いで大高揚の先頭に立つよう呼びかけた。以来、城津では、同年4月に鋼鉄を3月に比べて4・5倍多く生産。その後も生産を伸ばし、重工業を発展させられる展望を築いた。だから今年の共同社説では、「第2の千里馬運動を展開」していくことが強調されたのだ。とくに、今年3月の咸鏡南・北道現地指導では、経済全般を軌道に乗せる意気込みがはっきりと示された。総書記は国内屈指の製鉄製鋼連合企業所である金策製鉄と城津製鋼、茂山鉱山の各連合企業所と清津鉄道局をはじめとする工場、企業所活動家協議会を招集。金鉄では既存の生産能力を最大限に発揮し、城鋼では現在ある設備と資材で増産に努め、茂鉱では精鉱生産を高め、清津鉄道局では鉄鉱材生産に必要な精鉱など各種原料と資材を適時に運搬するよう強調した。

 咸鏡南・北道に対する総書記の現地指導は、経済を立て直して「2000年に迎える朝鮮労働党創建55周年を強盛大国建設の誇らしい成果として意義深く」(労働新聞1月7日付)迎えるための飛躍台を築くものとなろう。

 

江原道

土地整理終了し農地増える

 江原道で昨年9月に始まった土地整理事業が今年3月に終わった。

 これによって3万ヘクタールのあぜや水たまりなど農作に利用されなかった土地や小規模の畑が、大きな田畑として生まれ変わった。

 総書記は今年2、3月、同道の土地整理事業を現地で指導した後、5、6月には機械化事業を指導した。

 労働新聞5月21日付が紹介した総書記が示した農業政策の中でも、土地整理事業を展開し、農業の総合的機械化を実現することが指摘されている。

 土地整理事業はジャガイモなどの食糧生産を高める対策で、農業の総合的機械化は、農民を骨のおれる労働から完全に解放するためのものだ。こうした江原道での経験は全国のモデルとなろう。

 総書記は江原道に続いて7月13日、平安北道の土地整理を現地指導し、代々受け継がれてきた小区画の田畑を近いうちに完全になくすよう述べた。

 平安北道での土地整理工事は、今年秋から来年秋まで行われる予定だ。