「新ガイドライン法案と在日朝鮮人の人権」/野田峯雄(講演要旨)
権力が「危機」出演
昨年10月の千葉総聯職員殺害事件をはじめ、一連の在日朝鮮人迫害の背後にある問題について取材し、「世界」6月号でレポートした。千葉の事件で犠牲になったのは一人だが、一個人の身に起きたこととしてではなく、広い視野に立って考える必要がある。
この事件と一緒に考えるべきものとして、国会で審議されている各種法案、そして警察の動きがある。
国会では先頃、周辺事態法が成立したが、これに盗聴(通信傍受)法案、住民基本台帳法改正案が続き、日の丸・君が代法制、有事法制、破壊活動防止法改正などの動きも見られる。やがて、憲法改正へとつながっていくのではないか。
警察庁は1993〜94年の朝鮮半島危機に際し、「北朝鮮への不正送金対策推進計画」という極秘文書を作成した。朝鮮半島情勢の変化に際し、在日朝鮮人に対して布石を打って行く手順を記したものだ。その中に、大物商工人への「事件化を図る」という言葉が出てくる。これは意図的に事件をつくり出すという意味で、国家謀略以外の何ものでもない。ちなみに、複数の公安関係者に取材したところ、この「計画」は今も有効だと聞いた。
一連の「法案」に弾みをつけたのは、いわゆる「テポドン」だ。日本政府は「テポドン」はミサイルだとして世論の危機感をあおった。しかし、防衛庁の報告書はこれがミサイルであったのか、人工衛星であったのかについて、キチンと検証していない。物体の落下地点についても近海と言えないものを「近海」とするなど、し意的な言い換えが目立つ。「危機」は、多分に演出されているのだ。
「危機」が演出され、世論が追随する。それを権力がすくいあげて、「異端」を取り締まる体制が強化される。これこそは、ファシズムの原初形態だ。マイノリティ迫害は、こうした状況下で起こっている。
こうした状況をつかんでいなければ、「人権」も観念論に陥る。周囲を見回して客観的に検証し、おかしなことに対しては臆せず発言していくことが、人権を守るうえで重要だと思う。