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日本中学の「問題児」ら、登山など通じて立ち直らせる/佐賀の沈成達さん


 昨年12月末、一見登山には似つかわしくない一団が、大分県の久住山(1787メートル)を登頂した。佐賀県で飲食業を営む沈成達さん(48)と、地元の日本の中学校の「悪ガキ」22人だった。

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 地理的な事情などから沈さんの息子、久栄君は地元の日本中学に通っていたが、その中学は、県内でも有名な「問題校」。生徒同士の喧嘩が絶えず窓ガラスは割れっ放し。生徒が教師を殴ることさえあった。

 すぐ警察に頼ろうとする教師たちと、その姿に不信感を募らせ行動をエスカレートさせる生徒たちの距離は離れて行くばかりだった。

 久栄君からそんな話を聞いていた沈さんはある日、「問題児」と呼ばれる久栄君の友人らを家に招く。

 「食事を共にしながら話を聞いてみると、複雑な家庭環境のもとで育った子が多かった。学校でも家でも行き場のない子たちが、自分の存在を分かって欲しくて問題を起こすのではないかと思った。誰よりも愛情に飢えていたのだろう」

 それ以来、沈さんはことあるごとに彼らを食事や釣り、登山などに連れて行った。だんだんと子供たちは本音を打ち明けるようになり、話を真剣に聞いてくれる沈さんを親のように慕うようになった。子供たちと触れ合いながら沈さんが思い出していたのは、朝高時代の教師の姿だった。

 「私も、中学までは日本の学校に通っていて教師たちに不信感を抱いていた。だが高級部から通い始めた朝鮮学校には、生徒と向き合い、生徒のために情熱を注ぐ教師がいた」

 そして昨年12月、子供たちと久住山に登る。

 「全員無事に登頂でき自信を深めるきっかけになった。進路について悩んでいた時期だったので、人生の目標を見つけるいい機会にもなったようだ」

 彼らはその後、調理師、美容師、建設業、定時制高校などそれぞれの道で、新しい人生を歩み出す決心をした。久栄君は、アボジの意を受け福岡にある九州朝高に入ることにした。

 3月29日、朝高進学に伴い佐賀を離れる沈君との「お別れ登山」が熊本の仙酔峠、阿蘇山、烏帽子岳で行われた。別れの日、沈さんは子供たちに次のような内容の手紙を渡した。

 …久住山に登った時のように、自分の力を信じて慌てずに一歩一歩進めば必ず頂上に達することができる。己に負けるな! 自分の運命は自分で切り開き、自分で決める。10年後、どんな人間になって現れるか楽しみにしています…