訪朝したユネスコ親善大使、平山郁夫氏に聞く/人類の財産 高句麗壁画古墳
国際連合教育科学機関(ユネスコ)の親善大使で世界文化遺産担当特別顧問でもある日本画家の平山郁夫氏が、4月24日から27日まで高句麗壁画古墳(キーワード参照)の世界遺産登録に向けて、2度目の訪朝をした。今回、共和国側とさらに一歩進んだ話し合いをしてきた。世界遺産登録の意義、今後の取り組みなどについて聞いた。(嶺、文責編集部)
最高のレベル、日本文化の源流/シルクロード同様、何度も訪朝したい
――今回の訪朝の経緯について
一昨年、10月にユネスコの親善大使として、高句麗壁画古墳の世界遺産登録に向けて初めて訪朝した。以前にも訪朝の打診はあったが、国交もなくなかなか実現しなかった。
高句麗壁画古墳との関わりは、1968年、秋の院展に出展した「卑弥呼○壁幻想」(○は土へんに広)という作品を描いた時、卑弥呼の服装を高句麗壁画古墳を参考にしたことだ。4年後に奈良で高松塚古墳が発見され、壁に描かれていた女性図の服装が、私が参考にした高句麗壁画古墳の服装とまったく同じだった。そのような縁があって、壁画をはじめ朝鮮、中国、日本の古代史の関係などを勉強した。
これまで、何人かの学者が訪朝し、高句麗壁画古墳など遺跡の保存問題で話し合ったが、国交がないため、大掛かりな協力は難しい状況にあった。だが、私はただ見学してくるだけでなく、協力できることを話し合い、実行したいと思っていた。国交がないため日本側が直接するのは難しいが、ユネスコの事業としてなら協力できると思い、世界遺産への登録を勧めた。
遺跡の永久保存には墓の温度、湿度の測定などを細かく計測する器具などを設置する必要があった。今回はエンジニア2人も同行し、計測器を2ヵ所に設置してきた。今後は具体的な書類を作成して、世界遺産登録の申請に向けた準備が行われるだろう。
――世界遺産登録の意義について
昨年7月、共和国は世界遺産条約に批准した。
今回お会いした最高人民会議副議長の張徹前副総理兼文化芸術部長ら文化部門の関係者との話を通じ、共和国は文化財保護への関心と認識が大変高いと感じた。文化財を民族の誇りに思い大変大事にしており、可能な限り保存活動に力を入れていることを実感した。
世界遺産登録は共和国では初めてであり、ビッグニュースとなるはずだ。
早ければ来年7月に本申請し、2001年に正式な登録となる。今回、計測器設置など保存のための費用はユネスコのマイヨール事務局長の協力を得ることができた。それは、高句麗壁画に対する評価と遺産登録を認めようとする意志の表れだろう。
高句麗壁画古墳は人類の財産だと言える。中国では、1世紀から8世紀、漢から唐の時代にかけて、大事な遺産をほとんどなくしている。そういう意味でも高句麗時代の壁画がほとんど変色していない状態で残っているのは、大変貴重だ。とくに四神図の白虎は素晴らしかった。東アジアのものを全部集めても最高のレベルであり、文化の独自性を築いていたことがわかる。高松塚と比べても、当時の国力、文化レベルに大変な開き、差があることがわかる。日本の文化の源流であり、間違いなく先生の立場にあった。
高句麗壁画古墳への協力は、日本にとっても文化の基を共に保存するという意義があると思う。
遺産に登録すると紛争が起きた場合、そこを攻撃したりすることは国際法、国際条約違反となる。いわゆる世界が認めた聖域になる。要するに文化で国を防衛できる。世界遺産をもっと増やしていくことは、共和国が戦争を望んでいないことをアピールすることになる。
――日朝両国の交流を発展させるには
日朝にはまず、信頼し腹を割って話のできる人物が必要だ。電気を通すにも、電圧を統一してからコンセントを差し込まないと、違うボルトではショートしてしまう。それと同じで、意志の疎通をはかろうと思えば、認識が違うままで話し合いの場に出てもかみ合わず喧嘩になる。互いの立場を尊重しながら、形を変えて協力し合うというのも方法だ。今は国際協力の時代だ。私個人、日本は過去、朝鮮に対し精神的にも人道的にも責任があると思っているし、隣国でもあり、文化的な手法なりをもって協力したいという立場だ。そういう心ある人たちがたくさんいるはずだ。
今回の訪朝は、日本政府も好意的に受け止めており、人類の遺産保存という大きなもののために動いているという点で理解も示してくれている。
――今後の取り組みについて
今回、妙香山の普賢寺を訪れた際、歴史博物館で高麗時代の八万大蔵経を見てきた。南には大蔵経の版木が海印寺にある。これは仏教にとって大変貴重なものだ。これを1000年ぶりに共に展示できれば、文化的な統一になるのではないかと思い、提案したところ南北双方とも好意的に受け止めてくれた。
共和国側は高句麗壁画の次は、平壌、妙香山、金剛山、開城・板門店などを世界遺産に申請したいと言っていた。条約のルールとして当然、非武装になるので大変いい事だと思う。軍事境界線の通る板門店の登録もぜひ提案したい。
さらにユネスコ主催で南北朝鮮、日本など周辺国が参加する国際会議を開き、互いの発言の場を増やしていくことも必要だと思っている。
シルクロードには100回以上も訪れた。今後も機会があれば何度も訪朝したいと思う。