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時事・解説/周辺事態法案――朝鮮半島出兵目指す


 現在、一昨年9月に策定された、新しい「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を実施するための周辺事態法案、自衛隊法改正案、日米物品役務相互提供協定(ACSA)などの関連法案が日本の国会に提出され、審議中だ。「朝鮮半島有事」を当面の口実にしたガイドライン関連法案が成立すれば、自衛隊は何の抵抗もなく合法的に朝鮮半島に出動し、軍事作戦を展開することが可能になる。その後には、戦争遂行に市民生活を服従させる有事法制が待ち構えている。(嶺)

 

防衛から攻撃へ転換/本質示す「先制攻撃」

 ガイドラインは、3つの柱によって組みたてられている。

 それは、@平素から行う協力A日本への武力攻撃に対する対処B日本周辺地域における事態で日本の平和と安全に重要な影響を与える場合の協力だ。

 1951年に締結された日米安保条約は、日本有事、つまり日本が軍事侵略をうけた場合の共同対処を主旨としたものだが、ガイドラインは、日本が平素から周辺事態=朝鮮有事を前提とした平時・戦時の区別のない有事体制を整えようというものだ。これは、78年の旧ガイドライン策定に続く日米安保条約の実質的な改悪であり、日本自衛隊の枠は防御から攻撃へと、飛躍的に広がった。

 ガイドラインを実行するための関連法案の内容をみると、周辺事態法案は、日本の周辺で米軍が有事と判断する事態が起きた場合の、日本(自衛隊)の軍事、民間支援を、米兵の捜索救助活動、船舶の臨検から始まって、日本全土が戦争遂行のために総動員されることになる。

 自衛隊法改正案は、海外に出る自衛隊の武器携行・使用に主眼点を置き、さらにACSA改正案によって、戦闘中の米軍への物資補給や武器・弾薬の輸送が合法化される。

 これらはいずれも、「後方支援」、「武力行使によらない対応措置」、「身体保護のための武器使用」などと表記されているが、戦争の領域を前方と後方に分けるなど不可能であり、どうにかして自衛隊を海外に派兵させようとの便法にすぎない。

 今年に入り、「共和国のミサイル脅威」を云々しながら、「先制攻撃の可否について検討すべきだ」(自民党の「危機管理プロジェクトチーム」)とか、「自衛権を行使して敵基地を攻撃するのは合法的に可能」(野呂田防衛庁長官、3日)との先制攻撃発言が相次いでいる。

 また、他国の内戦やクーデターなども「周辺事態」に該当するとして、「日本攻撃の意図がなくても周辺事態になり得ないわけではない」(高村外相、2月10日)などともいわれている。

 「後方支援」や「自衛」という表現とは裏腹に、ガイドライン関連法案の成立によって日本がめざそうとしているものがどこにあるのか、その本質を明確に示している。

 

米国の戦争に自動参戦/朝鮮侵略の「不沈空母」

 ガイドライン関連法案が、制定されると、日本は米国の戦争に自動的に参戦することになる。つまり自衛隊は米国とともに同盟軍を構成して何の支障もなく軍事作戦に参加することになるのだ。

 その一端を垣間見せたのが、1994年春、共和国の「核疑惑」騒動時、軍事攻撃を計画した米国が日本側に求めた「後方支援」の内容だ。

 この軍事攻撃は、93年秋にその存在が明らかになった「米韓合同5027作戦計画」に基づいたもので、この時米国は1059項目にものぼる支援を求めた。

 在日米軍基地の使用はむろん、民間の空港、港湾、施設の使用、輸送、警備の支援など細部に及び、さらには海上封鎖の際の船舶臨検など戦闘活動に踏み込む行動まで要求した。

 また、「5027作戦計画」は2年ごとに修正されているが、昨年12月、米軍部がリークした内容によると、完成された「5027作戦計画」は、共和国に対する先制攻撃を前提にして、軍事境界線を24時間以内に突破し、最終的には平壌だけでなく、共和国全域を「占領」するなど5段階の作戦で構成されている(「ファ−・イースタン・エコノミック・レビュー」98年12月3日号)。

 そして、この作戦遂行には日本の自衛隊の戦力、後方支援が不可欠の要素として組み込まれている。

 94年当時は、法的整備が間に合わないとの理由で米国の「要請」は実現しなかった。

 作戦が遂行される際は、「新・日米ガイドラインの初のテスト・ケースとなる」(前述誌)というように、新ガイドライン関連法案は、この「要請」を実行するためのものであり、成立すれば日本全土は朝鮮半島進撃の「不沈空母」となるのだ。

 

表裏一体の「有事立法」/在日朝鮮人、反戦勢力視野に

 ガイドライン関連法案が成立すれば、その次に提起されてくるのが「有事立法」の制定だと言われている。つまりこの両法は表裏一体のものであり、どちらが欠けても実効性はない。

 事実、防衛庁首脳は1日、「周辺事態法案の後は有事法制の整備を求める声が自民党などから上がる可能性が高い」と述べている。

 ガイドライン関連法案は自衛隊を海外に合法的に派兵するための法律だが、「有事立法」はその自衛隊を海外に出すまでの日本国内における行動を保障するためのものだ。

 その中味は@自衛隊の行動にかかわる法制A米軍の行動にかかわる法制B国民の生命、財産などの保護のための法制からなる。

 @は例えば道路の優先使用、支障となる土地・建物の接収、撤去、野戦病院の設置などが含まれ、84年までに一部を除き、その概要が発表されている。

 今後はA、Bが論議の対象となっていくが、中でもBの部分が焦点となってくる。「保護」とはいうが、表現を変えれば戦争に反対する人々への「統制」「弾圧」となりかねないからだ。

 新ガイドライン策定が日程に上りはじめた1996年8月8日、梶山官房長官(当時)は山梨県で行われた日本経営者団体連盟のセミナーで講演し、朝鮮半島で有事が起これば、武器を持った偽装難民が紛れ込み、在日朝鮮人と「韓国人」の2つの組織の間で内紛状態が起こり、市街戦や局地的なゲリラ戦から始まる、と発言した。

 自衛隊を「領域警備」につかせる必要性を強調したものと説明されたが、何故在日朝鮮人団体が例として挙げられたのかだ。

 1950年の朝鮮戦争に先立ち、在日本朝鮮人聯盟などがGHQ(日本占領下の連合軍総司令部)によって強制解散させられた。梶山発言は、日本当局が折あるたびに口にする「朝鮮半島有事」の際、在日朝鮮人の行動を制限し、場合によって朝鮮戦争時のように全面弾圧の対象とすることが念頭にあることをうかがわせたものであったと言える。

 ここに「有事立法」の本質がある。