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本の紹介/「金正日時代の朝鮮」 名田隆司著


 日本で暮らす者にとって、朝鮮民主主義人民共和国の実像と指導者の素顔を知ることは、簡単なことではない。それは、日本のメディアが、こと朝鮮報道に関しては、CIA、公安情報や南朝鮮情報部の未確認の情報を垂れ流し、世論を誤った方向へと操作しているからだ。

 本書は日本人ジャーナリストとして、そうしたマスコミの朝鮮報道の無責任さを憂慮する立場から書かれたものだ。

 タイトルにあるように、「金正日時代の朝鮮」を政治、経済、軍事、外交、生活のあらゆる分野にわたって分析、検証している。共和国での豊富な取材体験と現地の外交専門家らとの率直な意見交換などが、朝鮮半島をめぐる国際情勢を見る視点に十分な説得力を持たせている。

 さらに、米国によって引き起こされた94年の「核疑惑」騒動以降の朝鮮半島情勢を、共和国側の立場にたって、徹底的な検証をしている。

 本書は、98年9月に「国家の最高職責」である国防委員会委員長に金正日総書記が推戴されるまでの数年間の共和国内外の情勢の推移をリアルタイムで追っていく。その情報の扱いは極めて、正確・冷徹で、無駄がなく、朝鮮報道の焦点を押さえている。当時、共和国はいかにこの危機に対処して、乗り切り、朝鮮式社会主義を守ることができたかを知ることができる。

 米日南の共和国への軍事的圧力と経済封鎖。その一方、共和国にとっては、社会主義市場の喪失によるエネルギー不足、金日成主席の急逝や数年間にわたる自然災害。ソフトランディングという じわじわ締め殺し 作戦や吸収統一論によって、社会主義体制崩壊を目論む帝国主義者たち。この数年間の息詰まる共和国の闘いを勝利に導き、試練の年代を希望の年代に替えた、金正日総書記の手腕(筆者はそれを魅力と表現している)に、読者は、ぐんぐんと引きつけられるだろう。  (粉)

 (1500円、さらむ・さらん社 TEL=089−971−0986)