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本の紹介/赤い涙―東京大空襲・氏と生の記録 村岡信明


 1945年3月10日、米軍は325機のB29爆撃機を動員して約36万発の焼夷弾を東京・下町の密集地帯に投下した。東京大空襲だ。非戦闘員の無差別殺戮を目的とし、わずか2時間半で10万人が殺されたホロコースト(大量虐殺)である。同地域には多くの在日同胞も住んでいた。何もかも焼失したため犠牲者名は10万人中5000余人しか分かっていない。

 自らも体験した東京大空襲を「死と生の記録」としてスケッチ、墨痕画、油絵などの技法で描き続け、戦争の悲惨さと平和の貴さを訴えている。第1章〜第5章からなり、作品にはすべて詩がつき、一点、一点が、まさに死なんとする人々の叫び、生き残った人たちの苦しみの声となって心底まで伝わってくる。

 「第4章 金君の記憶」には「キムチ」「金君、故郷を想う」「火風の中にオモニの声」などがあり、「10万人の中の朝鮮人」はつぎのようにつづる。

  「門前仲町が燃えた 郭も燃えた/貧しさに売られた娘たちが死んだ/前夜、朝鮮から連行された若者たち/朝鮮人徴用工 200余人も死んだ……」

 「自国民と他民族に対する戦争責任と真実の追及、絶対的な評価は定まっていない。…誤った歴史を正しく評価し継承することは、再び国民を不幸におとし入れる政治の動きに敏感に反応し、阻止する力を培う裏付けでもある」(あとがきより)との思いで50余年間、描き続けられた詩と絵の重みがある。

 4300円+税、

  クリエイティブ21・東京都新宿区三栄町16、TEL 03−3226−5292