本の紹介/身世打鈴 朴貞花著
在日1世の同胞女性が、日々の喜怒哀楽を綴った短歌集。昨年、還暦を迎えたのを機に、30年近く詠み続けてきた480余編を1冊にまとめた。
著者は1938年忠清道生まれ。1歳の時、家族に連れられ、日本に強制連行されていた父の元へ。解放後の生活は多くの在日同胞同様、苦労の連続だった。
幾多の苦難を乗り越えながら2人の子供を育て上げた著者の人生に、常に寄り添っていたのが短歌だ。
20数年前、夫が急逝した時に詠んだ短歌が初めて入選して以来、朝日歌壇の常連である。
技巧に走らず素直に思いを綴るストレートな作風。個人的な喜怒哀楽を扱いながらも、民族へのこだわり、社会への深い関心がうかがえるその作品には、在日同胞としての生に敏感であり続けた著者の豊かな感性がにじむ。
朝日歌壇で初投稿作を選んで以来、著者の師である歌人、近藤芳美氏は本書の序文で「必ずしも巧みとは言えなかったが、素朴であり、一途であり、つねに『在日』という枷を負いながら、民族の思いに満ちていた」と書いている。
古い順に、ほぼ時の経過に沿った形で編まれた本書は、短歌を通じた一同胞女性の個人史でもあり、同胞社会の歴史の一断面としても興味深く読める。 2800円+税、砂子屋書房、東京都千代田区内神田3−4−7、TEL 03−3256−4708