わがまち・ウリトンネ(37)/神奈川・川崎(6) 金三浩
同胞いる限りトンネは存在/「汚染日本一」の群電前
東京―横浜間をつなぐ産業道路を越えて南へ行くと、川崎区池上町、池上新町に出る。一帯に入って100メートルもすると、日本鋼管の敷地内に入ってしまう。ここにも多くの同胞が住んでいる。
工場拡張工事などの建設に携わった同胞たちだ。戦時中、産業道路をはさんで、日本鋼管などに送電していた群馬電力があったことから、群電前と呼ばれる。今もこの呼び方に変わりはない。
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メモ : 1960年の、災害防止のための住宅地区改良法の制定と関連して実施された、神奈川県の「住宅地区実態調査報告書」で、池上町は不良住宅地区に上げられている。当時、約1500人いた住人のうち約60%を同胞が占めていた。
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金三浩さん(67)の案内で、群電前のトンネを訪れると、「消防のホースも入りにくい」(金さん)ほど入り組んだ路地に、同胞の家が並んでいた。
「下水道の設備が整ったのは20数年前のことです。それ以前は、大雨でも降れば、床下浸水は当たり前。臭気が漂い、本当にたまりませんでした」
それでも衛生面は改善された。だが、入り組んだ路地、住宅密集地ということで、都市災害面での対策は今も不十分だ。
実はこの地域、環境庁発表の「二酸化窒素(NO2)濃度ワースト10」で、88年から91年まで連続「汚染日本一」を記録した場所でもある。
72〜82年までの外国籍公害認定患者総数は163人で、うち159人が同胞である。
工場群をおおうよどんだ灰色の空気、産業道路を絶え間なく走る大型トラックの騒音、それに排気ガスのにおい…。地域の住人は今もこれらに悩まされ続けている。ひどい時には、せっかく洗濯した物がまっ黒に汚れることもある。
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現在、川崎市には約9000人の同胞が住むが、そのほとんどが臨海地区の数多くの工場建設に携わった同胞、「命の交換」所と呼ばれた日本鋼管などに強制連行されてきた同胞の子孫である。
こうした経緯から川崎市では現在、在日外国人福祉手当として高齢者に月額2万円を給付(94年10月から実施)している。対象者は約600人(9月現在)で、その約90%が同胞である。これは「年金の代替措置ではなく、日本の植民地支配により渡日を余儀なくされた在日コリアン1世を慰労するもの」(川崎市民生局高齢者福祉課)だ。つまり、強制連行され日本に住むようになった同胞への補償と位置付けられている。
金さんは、「今では1世も少なくなったが、同胞がいる限り川崎のトンネは存在する。これからは1世が築いたトンネを若い世代が受け継ぎ、盛り上げていく番だ」と語る。 (この項おわり=羅基哲記者)