99アジア経済/金融安定積極策が奏功
徐々に好転「最悪期脱した」/背景に「IMF導入」への反発
1997年7月、タイの通貨バーツ切り下げから端を発した東アジアの通貨・金融危機は、地域に深刻な景気低迷をもたらした。国際通貨基金(IMF)は、これらの国・地域に融資を行う見返りに、貿易や投資の自由化など様々な条件を課してきた。
IMFの設立と活動には、米国の強いイニシアチブが働いている。経済のグローバル化を唱える米国の狙いは、IMFを使って世界経済を米ドル本位の金融・通貨システム、米国式市場経済に転換すること。IMFの融資を受けることはすなわち、経済が米国のコントロール下に置かれることを意味する。
アジアでは、こうしたIMFの処方からの決別を求める声が高まり、金融システムの安定を図り、構造調整などの積極策を取った。こうして、マクロ経済は着実に危機から回復へと軌道を戻しつつある。
日本貿易振興会(ジェトロ)・アジア経済研究所の推計によると、東アジアの10ヵ国・地域(南朝鮮、台湾、香港、シンガポール、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、中国、ベトナム)の今年度の経済実績は、通貨危機の影響が最も深刻だったインドネシアを含め、すべてプラス成長となる見通しで、東アジア全体でも6,2%のプラスが見込まれる。
要因としては、半導体をはじめ電子産業の世界的な回復や、米国経済の高成長の持続に円高も加わり、輸出に追い風が吹いたことなどが挙げられている。
しかし、貿易収支の伸び悩みや、バブル経済と指摘される米国の浮沈如何によって再び危機に陥る危険性は排除できない。「東アジアは最悪期を脱した」(ジェトロ)とはいうものの、爆弾を抱えたままである。
南朝鮮/
97年末にIMFと融資合意を結んで以降、無理な緊縮財政を強いられ、「IMFの経済植民地か」という反発が市民の間で高まった南朝鮮。IMF依存からの脱却を図りたい「政府」は、金融市場の開放や財閥改革などを講じた。その結果、経済は1年で九%の成長を遂げ、物価も安定。輸出と工業生産実績は2ケタまで持ち直し、数字で見る限りはIMFショック依然の水準にまで戻った。
金大中「大統領」は今月2日、一時期は38億ドルにまで落ち込んだ外貨準備高が680億ドルと、IMFから受けた融資額580億ドルを超えたことを挙げ、危機克服を宣言した。
しかし、解雇された失業者は推定300万〜400万人とも言われ、中産層の没落で貧富の差が激しくなるなど、楽観視できない状況が続いている。
タイ/
アジア経済危機の「火付け役」であるタイでは、昨年発表された包括的金融システム再建計画に従い、公的資金による金融機関への資本注入制度を導入。企業の債務処理も、関連法案を続々制定するなど積極的に促した。
今年、輸入額は前年比プラスに転じ、輸出も順調な伸びを見せた。これを受け、チュアン首相はシンガポールで10月に開かれた「東アジア経済サミット」で、貿易収支の伸びや物価の安定を理由に、IMFに今以上の支援は求めないとする「決別宣言」をした。
インドネシア/
食糧生産の不振と輸入品の値上がりでインフレが急進し、経済不安が深刻化していたインドネシア。昨年5月のスハルト政権崩壊後、東ティモールやアチェの独立問題をはじめ、政情不安定が続いた。
昨年は経済成長率がマイナス一3,7%と最悪値を示したが、今年は漁業や農業などで生産が上向き、6月の総選挙後の第2・4半期(4〜6月)には、経済危機突入後、ようやくプラス成長を記録。欧米や日本からの投資にも回復の兆しが見え始めている。
マレーシア/
マレーシアでは、タイのバーツ急落に引きずられるように、通貨リンギットと株価が同時に落ち込み、緊縮財政も効果なく、景気は大きく後退した。
そこで、マハティール政権は通貨の対米ドルレートを固定するなどの刺激策に転換。これを反映して、今年に入り、製造工業をはじめ各業種で上向きの兆しを見せた。
日本/不況構造変わらず
日本は、経済成長率のみ見ると、昨年のマイナス2,8%から今年はプラス0,5%と若干だが好転しており、バブル崩壊後の長いトンネルから抜け出つつあるかのように見える。
だが一方で、金融をはじめ各種業界の大型合併・提携は今年も相次ぎ、それに伴う雇用不安は一層、深刻化している。1000万円以上の負債を抱えて倒産した企業は、今年上半期現在で7919件と、依然として高水準。そのうち72%を「不況型倒産」が占めており、一般庶民にとっては寒い状況が続いている。 (柳成根記者)