当世外食事情/押野見喜八郎氏講演


値付けの発想/喜びの還元できてますか

 メニュー作りでは、値付けの問題があります。ポイントになるのは、どういう原価のものをどういう価格で売るかということです。

 焼肉屋さんみたいなお店ですと、どちらかというと商品の価値イコール原料費や原価、みたいな部分があるわけです。価格をつける場合にも原価率というものが重要になってきます。

 お客さんも、食材の質と価格のバランスを見ます。ですから、原価の安いものを、サービスや立地などの付加価値で高く売るのは、なかなか難しい。

 そこでお考え頂きたいんですけどね、私ども粗利の率を気にしがちですが、実は、粗利高の方が重要なんじゃないかと思うんです。

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 ある有名なお寿司屋さんの話です。

 経営者の方のお話を伺いに行きました。お店が終わってからということだったんですが、営業の状況を見ようと早めに行きました。客数たるやすごいもんです。お店に入るまで、かなり並びました。閉店近くまで、列はとぎれません。

 並のにぎりを頼みました。900円位でしたかねえ。まあ大したものは出てこないだろう、という感じでした。でも、いざ出たものを見て驚いた。並じゃなくて上だと思ったんです。

 しかし店員さんは、これが並だという。どう見ても、普通のお店なら上です。下手したら特上かなって言うくらい、中身がよかった。ほかの商品もすべて、お得なものばかり。原価計算しましたら、どう見ても5割を超えてる。6割近いくらいの内容です。

 経営者の方のお話では、最初はごく普通の寿司屋だったんですって。大してもうからなかったので、店仕舞いを考えたそうです。

 でも、ただやめちゃうのも常連のお客様に申し訳ないので、感謝のつもりで、「少しサービスで営業してやれ」と、その日からどんどんいいものを出した。常連さんも伝票を見て、「こんなんんでいいの」ってびっくり。「いいんです、いいんです」と。どうせお店やめる気だし、半分やけだったから。

 それをしばらく続け、じゃあそろそろ閉めようかという頃になってみると、どうも様子が違う。常連の来る頻度が高くなり、見たことないお客も増えて来た。どうしちゃったんだろうと思ってたら、お店の外に列までできるようになった。

 やめるにやめられなくなって、真剣に悩んだそうです。でも、申告の時期になって計算して見たら利益が出てた。ずーっと商売をやって来て、その時ほど利益が出たことが無かった。

 もちろん、業者への支払いは目をむくような金額になってるわけ。そらそうですよ、魚屋なんかウハウハですよね。

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 その路線で経営を設定し直したら、もう列が長くなる一方。店はどんどん大きくなりました。お子さんは外国に留学しちゃったし、豪邸に住んでる。

 考えて見ますと、どんなメニューも、食材なんかのコスト以外は人件費も償却費もみんな同じです。1つの商品につき、いくらの粗利があれば経費と利益がまかなえるか、こう考えて見ますと、その金額だけ得られれば、あとは全部原価にかけてもいいんです。

 原価率が高いほど、お客の充実感も高いです。お客さんは喜ぶし、業者さんも喜ぶ。お店はもっと喜ぶ。3者が幸せ、こんないいビジネスありません。

 値付けは、大づかみに言いますと、価格政策というものにつながります。ちょっとした発想の転換で、こういう値付の仕方もあるということです。   (おわり、文責編集部)